(2022年8月発行)

戦略・資本

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写真:濵田 昌宏

グループCFO/CSOメッセージ

レジリエントなビジネスポートフォリオの構築とグループの持続的な成長を 確かなものとするための経営資源配分により、
SOMPOのパーパスの実現と企業価値の向上を目指していきます

グループCFO兼グループCSO

濵田 昌宏

我々を取り巻く外部環境は、先行きを予測しがたいVUCAのなかにあると言えます。環境変化のなかで、新たな社会課題が顕在化し、お客さまの価値観やニーズも大きく変化してきたと感じます。当社は「“安心・安全・健康のテーマパーク”により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」というパーパスを定め、経営の軸に据えています。私はグループCFO兼グループCSOとして、こうした環境変化に即応できるレジリエントな事業ポートフォリオの構築や、財務健全性の確立といった“守り”の取組みと同時に、VUCAの時代でもグループの持続的な成長を確かなものとするための経営資源の配分を実行する、“攻め”の取組みを両立させることで、SOMPOのパーパスの実現と企業価値を高めていくことをミッションとしています。

2010年のNKSJホールディングス(現SOMPOホールディングス)の設立以降の約10年を振り返ると、当社の収益基盤や事業ポートフォリオは大幅なトランスフォーメーションを遂げました。まずは主力の国内損害保険について傘下2社の融合を進めつつ収益力を高め、2014年9月の合併によりグループの中核となる国内最大規模の損保会社の誕生に至りました。安定したキャッシュフローを創出し強固な事業基盤を持った損保ジャパンはその後も、プライシング戦略の見直し、デジタル活用による生産性向上などの収益構造改革などによって、収益性を大幅に改善させ、進化し続けています。一方、日本の人口減少、少子高齢化、自然災害などの課題への対応として、国内損害保険偏重の事業構造から地域やリスクの分散を図るため、海外保険事業を拡大するとともに、介護事業への参入、積極的なデジタル技術の活用にも取り組みました。海外保険事業では、トルコ、マレーシア、ブラジルなど成長著しい新興国へ相次いで進出するとともに、先進国では高収益で高い成長も期待できるスペシャルティ保険などを手掛けるため、2014年に英国のCanopius、そして2017年にはバミューダのEnduranceグループ(現SOMPOインターナショナル)の大型M&Aを成功させ、事業規模は飛躍的に拡大しました。また、海外保険事業傘下の子会社再編によるグローバル・プラットフォームの構築や、ガバナンスの強化を通じて強固な事業基盤を構築しました。保険事業以外では、2015年度から介護事業に本格的に参入し、サービス品質と生産性向上に資する施策を相次いで実行し、当社が価値を提供するフィールドは大きく拡がりました。さらに、国内企業としていち早くデジタル領域に取り組み、東京・シリコンバレー・テルアビブに「SOMPO Digital Lab」を設置し、世界最高レベルのデータ解析能力を有する米国のPalantir Technologies Inc.(パランティア)とのパートナーシップを形成して、デジタルソリューションプロバイダーとしての体制を着々と強化するなど、新たな事業創出にチャレンジしてきました。このように各事業の競争優位性を強化しながら、グループ全体で大胆な経営資源配分を実行することで、収益基盤の多様化・安定性を確保し、2010年度に276億円だった修正連結利益は2020年度には当時の過去最高益となる2,021億円、修正連結ROEも2010年度の1.6%から2020年度8.0%と、大きな進化を実現することができました。発足から10年間でこのようなトランスフォーメーションを推進しつつ、経営基盤の強化と資本の蓄積を進め、いよいよグループが飛躍的に成長し、「安心・安全・健康のテーマパーク」の実現を加速させていく土台が醸成されました。

このように大きく成長した2010年代をふまえ、次の2020年代のSOMPOグループのさらなる成長に向けて、2021年度から2023年度までの現中期経営計画が走り始めています。

グラフ:国内損害保険、海外保険、国内生命保険、介護・その他、修正連結ROE

中期経営計画の策定にあたっては、私はグループCSOとして、まず今後の10年間のメガトレンドを考えました。気候変動、デジタルの進展、社会変容に伴う新たなリスクの出現、社会の分断、インフレ、地政学リスクの高まりなど、ニューノーマルな社会がグローバルで形成され、国内では世界に先駆けて人口減少、少子高齢化に伴う社会課題に直面しています。さらに、新型コロナウイルス感染症の流行を契機に、社会の変化や将来の課題が前倒しで出現し、不確実性はますます高まっています。

このような環境下、我々が注力すべき基本戦略を3つ掲げました。保険を祖業とする我々にとって、不確実性への備え・レジリエンスの獲得が従来以上に重要であるとの認識から、まずは「規模と分散」、そしてさらに保険の枠を超えて社会課題を解決していく「新たな顧客価値の創造」、そしてそれらすべてのチャレンジの基盤となる「働き方改革」を戦略として取り組もうというものです。

そして、これらの3つの基本戦略に対して具体的なKGI・KPIを設置し、順調に走り始めています。「規模と分散」では、修正連結利益3,000億円以上、修正連結ROE10%以上を目指し、国内損害保険事業の収益性の一層の向上、海外保険事業を成長のドライバーとして、グローバルピアに比肩する安定した収益基盤を確立し、資本効率性、安定性、成長性を高めることで、地域分散やリスク分散の効いたレジリエンスを獲得していきます。また、「新たな顧客価値の創造」では、我々は「安心・安全・健康のテーマパーク」の実現というパーパスに向けた重要な戦術として、保険事業や介護事業などを通じて取得した膨大なリアルデータを活用したRDP(リアルデータプラットフォーム)に照準を定めました。RDPによるソリューションの提供を通じて、社会課題を解決し、マネタイズできるビジネスモデルの構築を目指します。RDPの開発は介護事業で先行して進んでおり、近い将来、皆さまに具体的なサービスをお示しすることができると思います。「働き方改革」では、社員一人ひとりが自らのMYパーパスに突き動かされ、やりがいや幸せを実感し、圧倒的に高い生産性を実現していくことでSOMPOのパーパスを実現していくことを目的に、さまざまな施策が実行されています。

そして、これらの基本戦略遂行のために、この中期経営計画期間中に6,000億円規模の資本を使って積極的な成長投資を行っていきます。「規模と分散」では主に海外保険事業におけるM&Aおよびオーガニック成長への投資、「新たな顧客価値の創造」ではRDPを中心としたデジタル・先進技術への投資などにより、目指す姿の実現を確かなものとしたいと考えています。

グラフ:修正連結利益 2010年度276億円、2020年度2,021億円、2023年度(計画)3,000億円以上

一方、グループCFOとして、財務的なアプローチで3つの基本戦略の位置付けを説明します。この3つの基本戦略の遂行は、PBRなどバリュエーションの改善を通じて当社の企業価値の向上にもつながると確信しています。ご存じの通り、PBRは、ROEとPERの掛け算として分解することができます。ROEはバリュエーション改善にもっともインパクトのある指標です。主に主力事業である保険事業で、「規模と分散」に取り組み、より少ない資本で多くのキャッシュを生み出し、各事業およびグループ全体のROEを着実に高めていきます。具体的には政策株式や金利リスクの削減などにより創出した資本を、より効率性の高い事業・領域へ振り向けることでこれを実現していきます。ただし、保険事業は国ごとの規制に応じて一定の資本を保有することが求められるビジネスであることから、ROEを例えば30%まで引き上げることは現実的に困難です。そこで、企業価値向上には、ROE向上に加えてPERの引上げも重要となります。PERには未実現の財務価値を含む成長期待と収益の安定性が大きく関係しています。我々は、保険事業の成長を通じた「規模と分散」による安定したキャッシュフローの獲得に加えて、「新たな顧客価値の創造」や「働き方改革」に伴う人的資本への投資などによって保険とは異なる角度での将来の成長期待を高めてPERを引き上げ、まだまだ伸びしろのあるバリュエーションや企業価値の向上につなげていきたいと考えています。

また、バリュエーション分析を通じて、株主の皆さまへの還元が株価に影響を与え、とりわけ配当の充実が重要との認識を強めています。現中期経営計画では修正連結利益の50%を基礎的な還元としており、利益成長により着実に還元総額を拡大させるとともに、株主還元に占める配当の割合を高めていく方針としました。また、業績動向や資本の状況に応じて追加還元を実施することとしています。2021年度は、好調な業績をふまえ、中間期に行った200億円の追加還元を含めて過去最高となる1,507億円の株主還元を決定しました。配当については、今後も含めた利益成長の見通しをふまえ、2022年度は1株当たり260円(中間130円、期末130円)と、2021年度配当から50円増配とし、9期連続の増配を見込んでいます。

図:新たな顧客価値の創造:保険事業・介護事業の強みとRDPを結合、社会課題解決への貢献を実現しつつ、長期的な利益成長性を高める。 規模と分散:更なる成長と収益性の向上、リスクの分散による安定的な事業ポートフォリオ構築。

中期経営計画の初年度となる2021年度は、経営数値の面では良いスタートを切りました。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う交通量減少の影響や、良好な金融市場環境を背景とする資産運用からの収益増加など一過性と考えられる上振れ要因はあったものの、国内損害保険事業での収益構造改革の進捗や海外保険事業での計画を上回るトップライン成長などベースの業績が順調に進捗し、修正連結利益は2期連続で最高益の更新となる2,613億円、修正連結ROEは9.4%となりました。残りの2022、2023年度は、既存事業での取組みをさらに加速させるとともに、成長投資、DXの強化、コングロマリット・プレミアムを創出する取組みを実行していくことで、中期経営計画の最終年度となる2023年度の経営目標数値である、修正連結利益3,000億円以上、修正連結ROE10%以上などの達成確度をさらに高めていきます。

SOMPOは、パーパスに根差した社会への価値提供を通じて企業価値の持続的な向上を実現すべく、経営資源の配分や成長投資、利益成長を伴う魅力ある株主還元などを実行していきます。SOMPOグループのさらなる成長にご期待ください。