(2023年8月発行)

ホライゾン3 WEB3/AI 来たるディスラプションに向けた戦略

デジタル事業オーナー
楢󠄀﨑 浩一

グループCDO
アルバート・チュー

デジタル業界の現状

楢󠄀﨑 これまでWEB3とAIについてたくさん話してきましたが、SOMPOグループのデジタル戦略における3つのホライゾンにおいて、WEB3とAIについてはどうお考えですか。

アルバート シリコンバレーの技術革新の始まりはその名前の由来どおりシリコンです。その後、PC、インターネット、そしてモバイルまで、テクノロジーには多くの波があります。今、はっきりと目にすることができる次の波は、WEB3とAIです。WEB3は、eコマースの大部分を支配するアマゾンのような少数のテック・ジャイアントを中心とした現在のインターネット(WEB 2.0)とは異なります。WEB3によってデータを活用する方法が変わり、データから新製品・サービスを生み出すことができるようになります。WEB3は、ブロックチェーンやスマートコントラクトのようなテクノロジーによって支えられており、世界がより分散化・透明化されるという大きなインパクトをもたらします。
それは多くの産業に変化をもたらします。だれもが自分のデータを所有するようになり、1つの企業ではなく、データを提供しただれもがその恩恵を受けられるようになります。
ここ1年でAIが爆発的に普及したのは、LLM(大規模言語モデル)を作成できる生成AIのおかげです。
インターネット上で公開されているデータを学習材料として使ってモデルを構築しています。インターネットには非常に多くの情報がありますから、AIチャットボットにどんな質問をしても、ほぼ確実に答えを返してくれます。何が正しくて何が間違っているかはわからないかもしれませんが、とてもよい回答をしてくれます。

楢󠄀﨑  面白いですね。

アルバート 生成AIのもう1つの特徴は、シェイクスピア風のエッセイのような新しい文章を書けることです。

楢󠄀﨑 シェイクスピア風にですか。

アルバート そうです。生成AIは、金融や保険、ヘルスケア、さらにはコンテンツ制作やエンターテインメントなど、多くの業界に影響を与えると思います。例えば、カスタマーサービスの分野では、多くの顧客がコールセンターに電話をかけたり、チャット・アプリケーションを使って情報を得たりしていますが、そのすべてが生成AIの助けを借りてより効率的にできるようになります。つまり、修理する方法など企業が持っているすべての情報をデータベース化し、AIに学習させることで、より正確で迅速な回答を提供できるAIモデルを構築できるのです。特に、顧客がとても難しい質問をした場合、生成AIは、カスタマーエージェントがとても迅速に対応する助けになります。

写真:楢𥔎 浩一

楢󠄀﨑 すべてが分散し重心がないため、そこにはハイテク大手は必要ないのですね。AIもまた、オープンソース化、コモディティ化され、無料で使えるようになるでしょう。これまでのソフトウェアモデルにあった価値や情報の非対称性が崩れるわけです。つまり、ユーザー側で実際のビジネスから得られるリアルデータが重要になります。

アルバート そのとおりです。リアルデータを積み重ねるには、そのデータの特定分野の専門家が必要です。そしてその専門知識は、私たちが持つもう1つの価値なのです。

楢󠄀﨑 まさにそうですね。

アルバート 多くの人がAIによって仕事を奪われることを心配しています。しかし、私が考えるに、AIはまず人の仕事の助けとなり、仕事をより効率的にすることができます。AIはリアルデータと膨大な経験・知識を組み合わせることができるため、プロフェッショナルである人の助けになるでしょう。しかし、最終的にはプロフェッショナルである人が具体的な業務に関する判断をしなければならないわけです。そのため少なくとも当面は、人が非常に重要であることに変わりはなく、生産性向上の手段としてAIを活用することになると思います。

楢󠄀﨑 好むと好まざるとにかかわらず、AIによってもたらされるパラダイムシフトは大きな混乱となります。SOMPOは、他の企業よりも周到に来たるべきディスラプションに備えていると思います。ディスラプションにどのように対処していこうとしていますか。

アルバート ディスラプションを想定しているからこそ準備していますし、そのために3つのホライゾンのデジタル戦略を採用しています。ホライゾン1はDX(デジタルトランスフォーメーション)、ホライゾン2はそこから生成されたデータを活用して新たなビジネスチャンスを創出することです。ホライゾン3は、ブロックチェーン、スマートコントラクト、AIなど、業界を変える特定のテクノロジーによるディスラプションを予測することです。ですから、私たちは今、それら破壊的なテクノロジーを理解し、実験し、私たちの日常に持ち込み私たちの生産性をどのように向上させられるか、そしてWEB3やAIにもとづいてどのような新しいサービスを生み出すことができるのか、準備しているのです。
私たちは将来のビジョンを持っているからこそ、変革やディスラプションに備えることができます。しかし、ビジョンを実現することは難しいことです。

SOMPOのデジタル戦略の優位性とユニークさ

アルバート ここ数年、SOMPOはビジョンとデジタル戦略の実行に全力を注いできました。その一例がPalantirです。データは非常に重要ですが、そのデータをすべて取り込み、分析するには、最新クラスの最高のプラットフォームが必要です。そして、Palantir Technologies JapanのCEOである楢󠄀﨑さんもよくご存知のように、データを取得するだけでなく、Palantirの『Foundry』に実際のデータを簡単に取り込むことができます。ホライゾン3という新たな破壊的世界に向かって加速できる新しい分析やツールを生み出すことができるようになるのです。

楢󠄀﨑 最初が介護です。リアルデータプラットフォーム『egaku』はPalantirの『Foundry』をベースにしています。現在、その上に生成AIを構築しており、専門領域の専門家やスペシャリストの知識をこの『egaku』に組み込むことができます。これによって介護の初心者の方でも、『egaku』に組み込まれたこの領域のスペシャリストの専門知識を活用することができるのです。在宅介護を含む介護業界に革命を起こし、皆が利益を得ることができます。
また、損害保険の引受においても『Foundry』を通じて、すでに大きな取組みの成果が得られつつあります。

写真:アルバート・チュー

アルバート SOMPOはグローバルに展開しており、世界中にエキサイティングな機会を創出しています。AIやWEB3などのテクノロジーは日本や米国だけのものでもなく、グローバルな技術です。ですから、私たちが開発するツールやモデルは、簡単にグローバルなものとなり、より迅速かつ効率的な方法で世界中で業務を遂行する能力を加速させることができるのです。損害保険ジャパンとSOMPOひまわり生命はその一例で、「教えて!SOMPO」や「教えて!ひまわり」でAIを活用しています。それについて少しお話しいただけますか。

楢󠄀﨑  「教えて!SOMPO」「教えて!ひまわり」は、詳細な約款など、保険商品に関するあらゆる質問に対する回答を、営業社員や代理店に提供する社内FAQです。これらにはAI技術が組み込まれており、より簡単なユーザー・インターフェースを実現しています。まるで賢い友人のように、「私はこんな状況にあるけど、どうすればいい?」と尋ねることができます。

アルバート 先ほど、SOMPOはグローバルに事業を展開しているという話をしました。東京だけでなく、シリコンバレーやテルアビブにもSOMPO Digital Labを置いており、これらのグローバル・テック・エコシステムを構築しています。グローバル・ネットワークについて、どのようにお考えですか。

楢󠄀﨑 私たちのグローバル・ネットワーク、Palantirや、2023年6月に上場したABEJAなどの戦略的パートナーは、各テクノロジーを活用することを可能にしています。そして同時に、私たちには共通のビジョンがあり、おそらくほかにもスタートアップなどの仲間がいるはずです。

アルバート 私たちが持っているもう1つの大きな財産はグループ内の事業会社のCDOです。損害保険ジャパン、SOMPOインターナショナル、SOMPOひまわり生命、SOMPOケアの各事業会社のCDOと、SOMPO Light Vortex、SOMPO Digital Labとともに、CDOアライアンスを結成しました。このCDOアライアンスを通じて、デジタルとデータに関するあらゆる取組みで協働し、相乗効果を生み出すことができます。
例えば、すべてのCDOがAIイニシアティブに取り組んでいます。あるCDOがAIを使って行っていることを別の事業で応用することができるため、事業間で異なるAIの事例を共有し、協力するだけでなく、新しいソリューションを生み出すために拡張・拡大することができるのです。そのため、各社が1から開発する必要がないだけでなく、各CDOが単独でできることを超えた新たな機会を創出することもできるのです。

楢󠄀﨑 『egaku』はその先駆的な事例です。SOMPOケアのCDOである岩本さんは介護のRDPに取り組んでいますが、私たちと一緒にグループ外のニーズにも対応できるサービスを考え出しました。これは最初の成功例で、これからもっと増えていくと思います。
もう1つは、Palantir、Palantir Technologies Japanです。彼らにとってSOMPOは多くの日本の顧客のうちの1つであり、パイロット的なカスタマーケースです。

アルバート 基本的に、私たちはリアルデータの力を実感しています。そしてAI、WEB3によって、私たちはSOMPOの枠を超え、このようなソリューションを業界に提供することができます。このようなビジョンを持つことが重要ですね。

楢󠄀﨑 そのとおりです。

アルバート 『egaku』はすでに介護業界のプラットフォーム構築に着手しています。櫻田さんが掲げた「プラットフォーム・ドリブン」というビジョンは、実現・展開されつつあるわけです。
世界がフラットになっているのは、世界がよりグローバルになっているからです。だれかが米国や日本で何かを作れば、それを世界中に売ることができます。AIやWEB3などのテクノロジーが、よりデジタルでフラットな世界を作り出していると思います。

楢󠄀﨑 そうですね。すべてがフラットになり、ブロックチェーンや分散型になっているので、ソフトウェアとして何かを作れば、それがどんなソリューションであれ、世界中のだれにでもハードルなく売ることができます。それがフラット化された世界の仕組みです。

アルバート これは保険にも応用できると思います。グローバルな損害保険会社であるSOMPOならば、ブロックチェーン、スマートコントラクト、デジタル決済などの新しいテクノロジーにもとづく次世代の保険商品を開発できるかもしれません。

楢󠄀﨑 保険引受そのものがすべてAIベースで行えるようになり、ユーザー・エクスペリエンスという点で、よりシンプルに、より網羅的になります。保険商品の枠組みさえも、より高度なものになり、目に見えないリスクも含めてすべてのリスクを完全にカバーできるようになるかもしれません。

今後の展望

アルバート SOMPOのLLM(大規模言語モデル)プラットフォームは、例えば介護の分野であれば、介護職員やその業務のためのインテリジェント・アシスタントを生み出すことができるかもしれません。先ほどもお伝えしたように、第三者が新しい製品やサービスを生み出すためにオープンなプラットフォームやAPIを確立することができるかもしれません。そして、彼らのビジョンを加速させる手助けをする一方で、彼らのビジネスモデルに参加することもできるのです。

楢󠄀﨑 このオープン・プラットフォームのような取組みでは、各LLMがAPIを使ってサイロを超えたインターフェイスを実現し、お互いの能力を活用できると思います。各プラットフォームは、ある意味独立していますが、それでも相互につながっています。つまり、クラウドの原型のようなもので、基本的にはこれらを活用するすべての人の役に立つのです。

アルバート SOMPOは、日本だけでなくグローバルに社会問題に取り組んでいます。高齢化は日本だけの問題ではなく、ヨーロッパや米国、中国といった他の国々でも、近い将来さらに大きな問題になるでしょう。私たちが創造するプラットフォームはグローバルなものでなければなりません。

楢󠄀﨑 エコシステムを構築し、その上に複数の異なる産業向けのアプリケーションサービスが搭載されていく。そのようなイメージですね。

アルバート 私たちにできることは、AIやWEB3を活用して社会課題を解決し、SOMPOのお客さまにもメリットをもたらすこと。それが、AIとWEB3を進化させる私たちの役割だと考えています。

楢󠄀﨑 私たちはとてもラッキーだと思います。私たちにはリアルデータがあり、いい意味で伝統的なビジネスがあり、そしてお客さまがいて、さらに莫大なリソースがあります。
WEB3やAIの登場もあいまって、私たちの未来は非常に明るいと思います。

アルバート 実際私たちは、WEB3やAIによって、25年前のインターネット創成期のような状況にあります。1998年にYahoo、Amazon、Googleが台頭し、それ以降どれほど多くの変化を目の当たりにしてきたでしょうか。今後展開する未来のスピードの速さを強く感じます。この旅を成功させるために、私たちは常に最先端を行き、何が起きているのかを見極め、俊敏かつ柔軟に、それを私たちのビジョンに取り込んでいかなければならないでしょう。それがSOMPOの差別化要因であり、他社とは一線を画する点だと思います。

楢󠄀﨑 とてもいい指摘ですね。私たちはこれまで多くの経験をしてきましたし、それはSOMPOにとっても役に立てるでしょう。
私はとてもラッキーだと思っています。SOMPOとそのパーパス、そしてSOMPOが7年前にデジタル部門を設立するという決断を下したことにも感謝しています。

写真:楢𥔎 浩一、アルバート・チュー

アルバート 私もとても感謝しています。私がAppleで働いていたときのモットーの1つに、“ The Journey is the Reward(旅の過程にこそ価値がある)”というものがありました。つまり、私たちは一緒にこの旅をしている。大切なのは最終的なゴールではなく、旅こそが本当に価値あるものなのです。そしてそれは、私のパーパスにもとてもよく合致しています。私のパーパスは、テクノロジーを活用して社会を変えることです。私たちはこの旅をともにすることで、再び世界を変えることができると信じています。

楢󠄀﨑 私のパーパスは利他です。保険の根幹は社会に利益を与えることであり、だから私もそのようにしているのです。私はSOMPOにいることを誇りに感じています。