(2023年8月発行)
1

マネジメントメッセージ

写真:奥村 幹夫

グループCOOメッセージ

「あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会」を実現する。
そのために、私たち自身のレジリエンス・強靭性を高めながら、変容するお客さまのニーズに応え、お客さまから信頼されるグループにしていきます。

グループCOO 取締役
代表執行役社長

奥村 幹夫

私たちSOMPOグループの源流は、1888年に創業した日本初の火災保険会社である東京火災です。火災が発生したら、保険という金銭的な補償を提供するだけではなく、だれよりも早くお客さまのもとに駆け付け、身を挺して火災からお客さまをお守りしてきました。

このDNAは、135年もの時を超え、SOMPOのパーパスへと受け継がれています。

私たちは、“安心・安全・健康”をお客さまへお届けし、すべての人が健康で豊かな人生を楽しむことのできる社会を実現する。そのために、社会が直面する未来のリスクから人々を守り、健康で笑顔あふれる未来社会を創り、多様性ある人材やつながりにより、未来社会を変える力を育む。この3つの価値を提供していきます。

その実現には、まず社会の変化やSOMPOグループの経営環境を的確にとらえ、そして私たち自身のビジネスモデルのあり方や価値観に目を向け、真摯に受け止めることが不可欠であると考えています。私はグループの最高執行責任者として、未来志向で私たちができることを躊躇なく実行し、企業としてのレジリエンス・強靭性を高めて、変容するお客さまのニーズにしっかりと応えられる、お客さまから信頼されるグループにしていきます。

厳しい環境を直視する

昨年4月にグループCOOに就任して以降、SOMPOのパーパスを実現し持続的な成長を遂げるため、グループの置かれた経営環境を正しく冷静に認識し、厳しい現実を直視できているかを常に自問自答し続けています。

まず、受け止めなければならないのは、マザーマーケットである日本における人口動態です。日本では史上初めて恒常的な人口減少に直面しています。実際、日本の人口は2008年の約1億2,800万人をピークに減少していますが、2023年は約1億2,460万人と、その減少率はわずか2.6%となっています。そのため、人口減少を実感している方は多くはないかもしれません。一方で、出生者数の減少は顕著です。私が生まれた1965年は約182万人でしたが、2022年は80万人を割り込み史上最低となりました。ある調査によると、2056年には日本の人口は1億人を割り込み、2059年には出生者数が50万人を下回る予測となっています。つまり今後日本は急激な人口減少に確実に見舞われることとなります。

また、15〜64歳の生産年齢人口も1995年の約8,716万人をピークに2023年には約7,400万人、2050年には約5,275万人に減少すると言われています。一方、65歳以上の高齢者の割合は高まり続けており、2022年には28.9%に至っています。つまり、働く人が減るため、支える人が増える、経済も拡大基調というわけにはいかなくなるわけです。このような人口動態の変化をしっかりと受け止める必要があり、これまでのような右肩上がりの人口・経済を前提としたビジネスモデルにとどまっていてはならないと考えています。

次にグローバルな社会課題であり、リスクが顕在化している気候変動です。次世代により良い社会を引き継ぐためにも、SOMPOが持続的な成長を遂げていくためにも、避けては通れない課題です。2022年も自然災害は猛威を振るい、保険損害額は約18.5兆円と過去10年平均損害額の12.7兆円を大きく超過しました。また、この自然災害激甚化の傾向は30年前から毎年5〜7%ずつ増加しており、この先も続いていくと考えられます。損害保険を主力事業とし、自然災害というリスクから人々をお守りすることを期待されている当社グループにとって、お客さまに安心をお届けするレジリエンス・強靭性を高めるべくビジネスのあり方を考えていかねばなりません。

また、新型コロナウイルス禍によるサプライチェーンの寸断やここ数十年では見られなかったレベルでのインフレーションが続いています。今年7月に日銀が発表した消費者物価指数においても当初見通しを上回るなど、日本においても想定以上の物価上昇が継続しています。長らくデフレが続いた日本において、インフレが継続する経済環境を経験している人は多くありません。そのようななかで、何を変えて何を変えないのかを、常に考え続ける必要があります。

写真:奥村 幹夫

そして、何よりも大事なことは、こうした環境変化に伴うお客さまの価値観・ニーズの変容です。例えば保険の手続きでは、スマートフォンで数回クリックするだけで簡単に加入できる保険や個人にカスタマイズした契約内容の説明をする動画など、顧客体験価値が飛躍的に高まっています。こうしたお客さまの期待値の進化や変容に応える新たなサービスを提供する必要があります。また、保険の手前で求められる予防・未病といったニーズも今後ますます大きくなると思われます。

これまでのビジネスモデルは、確かに機能してきました。しかし、今後は、外部環境や前提が大きく変わるなか、過去の成功体験をベースにしたビジネスモデルや価値観、仕事の進め方では社会から必要とされる存在になれません。例えば、企業同士の株式の持ち合い、同じ条件で複数の保険会社が共同で保険引受を行うなどの業界慣行、そして何よりも私たち自身のメンタリティや企業文化など、見直していかねばならない課題が数多くあると認識しています。

このような現実や真実から目をそらさずに受け止め、お客さまニーズの変化を的確にとらえ、そして具体的な対策を打ち出していかねばなりません。私自身その先頭に立ってグループの変革を牽引する覚悟を持って臨んでいきます。

これまでに取り組んできたこと

外部環境の変化に対応するために、現在の中期経営計画において取り組んできたのが「規模の拡大」と「リスクの分散」です。2010年のSOMPOホールディングス設立以来、国内損害保険事業がグループ収益の過半を稼ぎ出してきました。ただ、人口相関性の強い損害保険事業においては、先ほど申し上げたような人口が減少し続ける環境下では、いずれ成長が止まる状況に直面する可能性があります。そのため、国内損害保険事業における収益構造改革への着手に加えて、成長期待の大きい海外保険マーケットへの積極的な経営資源の投入や、高齢化が進むことで拡大が見込まれる介護マーケットに参入するなど、グループの収益構造、事業ポートフォリオの見直しを進めてきました。

この取組みは、ある程度結果として表れてきました。海外保険事業を中心に大きく成長し、SOMPOホールディングス設立の2010年には約1.9兆円だったグループの収入保険料は2022年度には約3.6兆円へ2倍弱に増加しました。また、修正利益に占める海外保険事業の割合は、現中期経営計画開始前の2020年度の約15%から2022年度には約43%へ上昇するなど、「規模の拡大」と「リスクの分散」は一定の効果をあげたと自負しています。

拡大が見込まれている日本のシニアマーケットにおいて、SOMPOグループは介護の居室数1位のポジションとなっています。また、介護施設や在宅事業所の拡大、品質を伴った介護業務の生産性向上によって入居率が向上し、お客さまから選ばれている手応えを感じており、2023年度の売上高は中期経営計画における計画値を上回る見込みです。

私自身、介護事業の責任者を務めた経験を通じて実感したことが2つあります。1つは、介護事業が保険では実現することが難しかったお客さまとの日常的な接点を持てる価値のあるビジネスであるということ。もう1つが介護の需給ギャップ、すなわちケアを必要とする高齢者の増加にケアに携わる職員が追いつかないという社会課題の深刻さです。これはまさに国家の危機ともいえるものであり、日本だけの問題ではなく、いずれは他の先進国も直面すると予想されており、SOMPOが向き合い、解決を目指さなければならないものと考えています。

その想いを実現するソリューションとして開発されたのが『egaku』です。『egaku』によって、介護施設入居者の健康状態が可視化され、介護を必要とする高齢者の必要なサポートを予測することが可能となります。このソリューションにより、適切なサービスを提供できるだけでなく、介護現場における職員の負担が軽減されます。結果、品質を伴った生産性向上や介護職員のエンゲージメントの向上といった効果が期待され、ひいては介護需給ギャップの解消にも貢献すると考えています。

『egaku』は、介護利用者などから得られる「データ」と世界有数のデータ解析企業であるパランティアをはじめとする当社パートナーの「テクノロジー」によって開発されました。この「データ」と「テクノロジー」を活用してお客さまの真のニーズに応えていく。これを戦略として落とし込んだものがリアルデータプラットフォーム(RDP)であり、その第一弾として事業化したのが『egaku』です。

今後は、介護事業だけではなく、グループのさまざまな事業において「データ」と「テクノロジー」を活用しながらお客さまのニーズに応えていきます。お客さまからデータをいただいて、ニーズをしっかりと把握し、新たなサービスを開発・提供していく。そのような価値を提供できるプラットフォームを構築していきます。

新たな価値創出への挑戦

繰り返しになりますが、お客さまのニーズにしっかり応えていくためには、私たち自身も変わっていかなければなりません。組織や制度、ビジネスモデルを見直し、お客さまのニーズに真摯に向き合い、迅速な意思決定ができる体制を構築することが必要です。また、多様な声やニーズに応えられるようなダイバーシティ&インクルージョンが組織に根付いていることも不可欠です。そして、本社から現場に至るすべての役職員が、お客さまをはじめとするステークホルダーの声に耳を傾け、私たちに求められていること、あるべき姿について主体的に考え、それぞれの組織の中で声を上げていく。そのような企業文化に変えていくことが何より重要です。SOMPOグループが持続的な成長を遂げるためにも、環境変化に対する耐久性を高め、強靭でしなやかな組織を作るという広い意味でのレジリエンスの強化に取り組んでいきます。

財務面においては、先ほど申し上げた規模と分散に加えて、コングロマリット・プレミアムの創出を掲げ、国内損害保険事業と海外保険事業が一体となって協業することで資産運用益の向上を実現するなど一定の成果をあげてきましたが、まだまだできることは多くあります。

キーワードは「つなぐ・つながる」です。

海外保険事業は国内損害保険事業に迫る規模にまで成長し、グループ全体での収入保険料は、すでにグローバルでもトップクラスを狙える水準となりました。この2つの事業が強固につながることで、保険引受における専門性を高め、最適な引受リスクの保有やオペレーションの最適化によって効率性を向上させ、グローバルベースでの商品提供などを実現することで、損害保険事業のさらなる成長が可能となるはずです。今後は、グローバルな規模の損害保険グループとして、お客さまのリスクを適切に評価し、最適な補償を提供し、さまざまなリスクから人々を守るために、さらなるレジリエンス向上を実現していきます。

また、健康の領域においても、グループの事業間をつなぐことで、より効果的に取り組むことができると考えています。1人でも多くのお客さまが1日でも長く健康でいられる、つまり健康寿命の延伸については、現在、国内生命保険事業の『Insurhealth®』を通じて支援しています。また、介護の需給ギャップの解消に対しては介護・シニア事業が『egaku』を通じて貢献しようとしています。今後は生命保険と介護という2つの事業の持つこれらのサービスをつないでいきます。そこにテクノロジーを活用してお客さまから頂戴したデータをつなぎ、さらには、健康を応援するさまざまなパートナーのサービスをつないでいきます。事業と事業をつなぎ、テクノロジーとデータを使ってお客さまやステークホルダーとつながっていく。そしてお客さまのライフステージごとに変わっていく行動・ニーズに対してグループのソリューションを提供していく。そのためにお客さまからいただいたデータをSOMPOグループが提供する損害保険、生命保険、ヘルスケアといったさまざまなサービスにつなげて、お客さまに健康になっていただくための行動をサポートし、年齢を重ね介護が必要になるようであれば、質の高い介護サービスを提供させていただく。このように、お客さまの人生の伴走者ともいえる存在に進化させていきたいと考えています。

これからも経営環境やお客さまのニーズは変わり続けていくと思いますが、私はSOMPOグループが直面している現実や不都合な真実から目を背けるのではなく、むしろこれらを機会ととらえて成長につなげていけるよう変革を主導していきます。そして、何よりも重要なステークホルダーの皆さまからの信頼をベースに、グループの企業価値向上とSOMPOのパーパスの実現にまい進してまいります。