デジタル戦略のホライゾン2では、DXで蓄積したさまざまなデータを活用して新たなビジネスを展開していきます。当社は、リアルデータプラットフォーム構想を掲げて以降、グループをあげてその具現化に取り組んできました。そして、2023年に『egaku』としてサービスを開始しました。
『egaku』により、ホライゾン2の具現化を牽引する遠藤介護・シニア事業オーナーと、そのパートナーとしてこのエコシステムに参画するNDソフトウェア・松山社長が『egaku』で実現する未来の介護についてお話しします。
遠藤 日本では、高齢化に伴う要介護者の増加により、介護の需要は右肩上がりとなっていきます。一方で、介護を担う人材を含む生産年齢人口は今後減少していきます。厚生労働省の試算では、2040年には介護を必要とする高齢者と介護を担う人材との需給ギャップが69万人にまで拡大すると見込まれています。
日本の介護システムは、北海道から沖縄まで、全国の津々浦々に施設系、在宅系などさまざまな業態のサービスが配置されている、世界に類を見ない素晴らしい仕組みです。このような仕組みが介護人材の需給ギャップの拡大により維持できなくなることに危機感を持っています。
この状況に対して何かできることはないか、日本の介護を救うためのエコシステムを提供できないか、という想いが『egaku』の開発の背景にあります。
松山 NDソフトウェアは、介護・福祉を中心に事務管理と現場の業務支援を目的としたソフトウェアの提供を通じ、介護事業者の健全な運営に貢献し、介護保険制度を支えます。介護人材の需給ギャップ解消は、我々も取り組んでいかなければならない非常に重要な課題です。
人材は他の業界との奪い合いにもなるため、介護業界の魅力を上げていかなければ、介護人材の需給ギャップは厚生労働省の試算からさらに拡大する可能性もあります。介護業界の魅力をどのように上げていくかというと、職員の処遇、働きがい、ケアの品質と生産性、この4つの向上が必要です。そしてこれらの向上にはIT・デジタル技術の活用が鍵となります。この『egaku』によって介護の「見える化」を実現し、職員の処遇、働きがい、ケアの品質と生産性向上につなげていくことができると考えています。
遠藤 日本に介護事業者は6万社あると言われていますが、当社を含めた大手5社のマーケットシェアは3%程度であり、中小の事業者が圧倒的に多い業界です。当社も施設や事業所の拡大に取り組んでいますが、当社の規模を拡大するだけでは介護業界全体を変え、日本の未来の介護を変革することには限界があります。
しかし、SOMPOケアには8万人のご利用者さま、2万人を超える職員の日々の記録データ、つまり、リアルなビッグデータが存在します。このデータを分析すると何かが見えてくるのではないか。このデータを使うことでご利用者さまのためにお役に立つことができる、そしてこの私たちの取組みを介護業界でエコシステムを構築し提供することができれば、日本の介護を変えられるのではないか。このようなことを考え、具体的な検討を進めてきました。
そのような時、Palantirとの提携が開始され、リアルデータプラットフォーム(RDP)構想が立ち上がりました。
松山 NDソフトウェアは、SOMPOグループと同じように、介護・障がい福祉事業所の「安心・安全・健康」を追求してきた企業です。介護事業所や障がい福祉事業所をシステムを通じて支えることで、ご利用者さまの「安心・安全・健康」を実現することを目指しています。そして当社の社員は、当社のシステムを使っている事業者だけでなく、もっと多くの介護・障がい福祉事業者やご利用者さまの幸せを追求したいと強く思っています。そこがSOMPOグループのパーパスと完全に一致しています。
ソフトウェア会社として初めて当社はSOMPOグループに加わりました。グループに加わり、実際の事業運営の中に入り込みリアルデータを活用したソリューションを提供することで、生産性、収益性を高め、職員の処遇、働きがいの向上、加えて採用増、離職減につながると考えています。このように、私たちが、リアルデータを持つ企業とIT・DX・ソフトウェア会社のタッグで生み出す新たなソリューションの価値を伝えることで、世の中のIT・DX・ソフトウェア会社から「SOMPOと一緒にやりたい」という声が増えれば、それが介護業界だけでなく、これらの業界の変革にもつながると考えています。
遠藤 『egaku』では2030年度に売上高300億円、営業利益100億円を目指す計画を立てています。そしてもう1つ重要なことは、『egaku』が創出する社会価値です。
私たちは、『egaku』が約22万人の介護人材の需給ギャップを解消することにより、2040年に約3.7兆円の社会価値を生み出すことができると試算しており、その実現を目指します。
そして、『egaku』によって生産性を高め、それを介護業界で働く職員の皆さんの処遇改善にまわしていく。このような好循環を業界全体で作っていくことで、介護業界の魅力を高めていくことが最終的に目指すことです。
そのためにも『egaku』を業界のデファクトスタンダードにする。すなわち介護事業者にとって『egaku』がなければ、困るというところまでもっていければ、業界に対して大きな変化をもたらすことができると考えています。
松山 私から見た『egaku』の凄さは、紙の記録が中心あるいはデータがあってもそれらが異なる場所にバラバラに存在している介護現場において、ペーパーワーク中心のオペレーションからデータドリブンでのオペレーション中心のマネジメントに変革するシステムであることです。
今までの現場運営のノウハウをデータ化し、そのデータをもとにオペレーション、ケアサービスの改善につなげることができます。ご利用者さまやそのご家族の立場から見れば、現在のオペレーションに対して介護を受ける人の意思の尊重が不足しているという見方もあります。事業者側の感情に任せたサービスの提供やだれもが同じサービスを受ける一律介護から脱却したいという想いを持っている事業者も多く存在します。
『egaku』はそのような介護のオペレーションを支援できるシステムであり、本人が受けたい介護を受けられるという理想的な介護に大いに寄与します。
例えば、援助時間データは、「Aさんは平均以上、Bさんは平均以下」となっている場合、Aさんでは、自立を妨げる過剰介護になっていないか、Bさんはケアが不足していないか、といった分析が可能となり、お一人おひとりに合った個別ケアにつなげられます。職員個人の感覚と経験で行っていた介護が「見える化」され、オペレーションにつなげられる。この点が『egaku』の凄さです。
遠藤 松山さんのおっしゃるとおりです。『egaku』の機能の例をあげると、例えばその施設に70人のご利用者さまがいたら、1つの画面に70人の名前が出てきて、1週間の援助時間を標準の援助時間と比較して見ることができます。標準以上の援助時間を要しているご利用者さまが一目でわかるわけです。そういった方は、排泄や食事の介助、例えば排泄だと、部屋に行ってみたけれどしたくない、行ってみたら失禁していたということが起きていることを把握できます。
要するに援助時間がずれていることがとても多い。このように原因がわかると、排泄援助の時間帯をずらすというように、打ち手や解決策が見えてきます。今までは職員の頭の中だけに入っていて全体が見えなかったものが、見える介護となります。
松山 職員が利用者の自立を阻害することもあります。例えば、30分かければ自分で着替えられるところを、職員が手伝ってしまうケースです。こういったところも『egaku』により見える化され、個別ケアができることでケアの品質の向上につながります。『egaku』によってご利用者さまの希望にあわせた、本人の人権を尊重したケアが実現します。
遠藤 一律介護をやっている事業所のオペレーション自体を変えていくようにSOMPOケアがアドバイスし、『egaku』の導入を働きかけることによって、その事業者の介護を可視化し、個別ケアの実現を後押しすることができます。
遠藤 先行導入している他社の事業者においては、経営層は『egaku』を導入することによって生産性を高めつつ、ケアの品質も落とさない、最終的に効率的な人員配置が実現して処遇改善にもつながる。この必要性と実現に向けた方向性に理解を示してくれます。
『egaku』を介護の現場に展開していくときに、ホーム長、職員などの現場の人たちが今までのオペレーションを変えなければならない。課題は、この「変化への抵抗」です。現場の一人ひとりに、「何のためにやっていくのか」を理解してもらい進めることが重要です。そのためにも、まずは「成功事例」を数多く作ることが最優先の課題となります。
やはり今、一番手応えがあるのは当社の施設です。『egaku』を非常によく使ってくれています。ホーム長、ケアコンダクターといったリーダー層は利便性を強く感じています。次のステップは、その他の職員です。働きやすさを感じてもらいモチベーションがあがるよう浸透・展開していくことが重要です。
そして、これらの成功事例を当社以外で増やしていくことが、『egaku』を業界全体に広めていくために何より重要だと考えており、2023年度は、『egaku』導入目標を100事業所として今まさに取り組んでいるところです。
また、日本の多くの事業所が介護保険の請求ソフトを導入していますが、介護記録システムは競争が激しく、システムの利便性の争いとなっています。今後の『egaku』の展開を見据えると、NDソフトウェアには、介護記録システムにおける優位性を高め、『egaku』との相乗効果を高めてもらいたいと考えています。
遠藤 2023年度は非常に重要な年になります。先ほども申し上げましたが「『egaku』を導入してよかった」という事業者の声をどれだけ広げられるかが課題です。
NDソフトウェアは特養老人ホームのシェアが高く、そこで『egaku』を使う事例を作ることが成功すると、展開スピードが加速していくと考えています。
そして、当社のシステムを当社が良いというだけでなく、同業者にも同様の声が広がっていくことが一番重要であり、『egaku』推進のエンジンになります。
また、施設だけではなく、在宅で介護を受けている方が多くいらっしゃいます。ここに『egaku』をどう導入していくかが、次の課題となります。施設であれば24時間365日データを取れますが、在宅で介護を受けている方とは週に数回程度の接点しかありません。
今、スマートシティやデジタル健康特区の構想が日本各地で存在します。自治体が中心となって医療・介護を結びつける、ヘルスケアデータプラットフォーム化です。こういったプラットフォームを自治体が作り、そこにデータが集まってくる。そこに『egaku』を展開していくことが在宅部門での成功の鍵となります。
現在、連携を開始している自治体もいくつかあります。損害保険ジャパンが全国で進めている地域連携協定をきっかけにして連携が始まった自治体もあります。日本の自治体はどこであっても高齢化・人口減少が深刻となっています。今回新たに開発し、ローンチした『ケアエール』という体調や日々の出来事などを気軽に共有できる在宅事業所向けのスマートフォンシステムなども活用しながら効果的に進めていければと考えています。
『egaku』によって介護事業の生産性が向上し、あらゆる人が介護を受けることができる。その結果、介護離職が減り、介護事業の職員数が増えなくても、介護人材の需給ギャップの解消という大きな社会課題の解決に貢献でき、3.7兆円という社会価値を生み出すことができる。私たちは、この実現を目指していきたいと思います。
松山 日本の介護の課題解決に対して、NDソフトウェアは日本でもっとも介護・障がい福祉事業所を支援できるソフトウェア会社になることを目指しています。具体的にやるべきことは、現在のソフトウェアと『egaku』とのバンドリング、つまり『egaku』と相性の良いシステムを作っていくことです。特に介護記録システムの活用から現場のさまざまなデータの取得を目指し、オペレーションの改善ができるシステムを構築していきます。
そして、介護現場の負担軽減、ひいては介護業界全体の生産性向上に貢献し、日本が誇る素晴らしい介護保険制度の持続可能性の向上に力を尽くしていきたいと考えています。
遠藤 中長期的な課題としては海外への展開です。海外の介護事業者に対し、『egaku』を通じた事業オペレーション支援はその1つであり、特に教育研修ノウハウの提供については本格的な検討に入っています。
『egaku』はリアルデータをベースにしており、海外においてどのように取得するか、個人情報の規制が厳しい地域もありますが、このような問題も克服し、SOMPOにしかできない、SOMPOならではの価値を世界に提供していきたいと考えています。