SOMPOのデジタル戦略の3つのホライゾン
SOMPOのデジタル戦略は、3つのホライゾン(ステージ)によって戦略的に進められています。
デジタル戦略の根幹であるホライゾン1では、SOMPOの各事業でデジタルトランスフォーメーション(DX)を通じた業務効率の向上、コスト削減を実現することで収益を高めることに注力しています。
ホライゾン2では、今後3~5年を視野に、DXを通じて蓄積されたデータを使って新しいビジネスの創出、つまりリアルデータプラットフォーム(RDP)の具現化を目指しています。
ホライゾン3では、5~8年先を見据え、AIやWEB3といった破壊的なテクノロジーをどのようにメインストリームに導入し、新しい製品やサービスの開発につなげていくかなど、さまざまな可能性を検討しています。
本特集パートでは、この3つのホライゾンを牽引するSOMPOグループのリーダーたちが取組みの進捗や今後の展望を総括します。
アルバート 本日の対談は、「ホライゾン1:DX(デジタルトランスフォーメーション)」がテーマです。各事業領域のCDOはホライゾン1構想の鍵を握っています。
村上 損害保険事業では、まずは保険金のお支払いとアンダーライティングの精緻化・効率化を実現することを目指しています。近年、自然災害の影響が深刻化しており、これまでと同じコストをかけていては保険そのものが成り立たなくなってしまうことが想定されるためです。
一方、デジタルテクノロジーは私たちの日常生活では当たり前となっています。今後は、保険をオンラインやチャネルを通じて販売するというだけではなく、お客さまのデジタルの行動に適応し、保険が必要となったときに、すぐに保険に加入いただける仕組みが必要です。私たちは購買行動のオンライン化を加速させ「新しい保険加入体験」を作っていかなければいけません。この新しいデジタル販売手法と顧客体験の創出を目指すことで、ビジネスプロセスの効率化を行います。
アルフレッド DXには多くの可能性がありますが、私は新しい未来のビジネス・エコシステムを創造することだと考えています。このエコシステムは、保険のサプライチェーンにおけるすべてのステークホルダーにメリットを提供し、利益を最大化するものでなくてはなりません。
そのためにはデータの価値を高めることが鍵となります。保険事業では、膨大なデータが蓄積されますが、確実に利益を最大化するためには、あらゆる保険商品に関するデータを統合し、第三者のデータでその価値を補強する必要があります。
次の課題は、ビジネスプロセスのデジタル化とスピードです。現在人の手が触れている、あるいは人の脳が処理している、ほとんどすべてのビジネスプロセスをスピーディにデジタル化していく必要があります。
3つ目の課題は、複雑さの軽減です。複雑さは、スピードを落とし、摩擦を生みだし、コストがかかることがあります。矛盾しているかもしれませんが、より少ない技術で、堅牢な技術を導入することが重要だと思います。
その堅牢性とは、意思決定者がどこにいても、必要な時にいつでも情報を活用できるようモビリティを向上させることともいえます。
西川 SOMPOひまわり生命で取り組むDXは2つの領域がスコープです。1つは、Insurhealth®をもっと磨き上げお客さまの健康をもっと後押ししていくという「攻め」の領域です。もう1つは、業務効率化、オペレーションの組み替え、お客さまにとって最適で、心地よい顧客体験の創出といった「守り」の部分です。ホライゾン1のこの1年は、契約データ管理方法の見直しや新たなデジタル技術を活用した保険商品の案内手法などを模索してきました。これらは、ホライゾン1での成果になると同時にホライゾン2への大きな種まきだと考えています。私たちの今後の課題は、種から実を収穫し、テクノロジーとデータによって、ビジネスに確かな効果をもたらしていくことです。
岩本 SOMPOケアでは「持続可能な介護の仕組みを作る」。その結果、「豊かな長寿国日本を実現したい」という壮大な目標をもってスタートしました。介護業界は年齢も働き方もさまざまな人材が、日々の業務に熱心に取り組んでいます。それら業務は丁寧なサービスを提供するのと同時に正確に記録を残していかなければならないという特性があります。2017年から介護保険請求などの事務作業の集中化や、現場で発生する介護の記録にスマートフォンを導入するなどの施策を実行してきました。また、要介護者の見守りであるとか、介護業務そのものを代替するテクノロジーやロボットなどの研究を始めるため、2019年からFuture Care Lab in Japanを設置しました。調査そのものは年間200アイテムくらい行っており、徐々に現場のオペレーションの中で浸透してきています。
私たちは、少子高齢化が進み2040年には69万人の介護職員が不足すると試算されている環境下で、介護の質を維持・向上しつつ、業務の効率化を実現すべくデータの活用にも積極的に取り組んでいます。データを活用することで、入院率が下がったり、罹患率が下がったりすることで、健康寿命の延伸、社会保障費の削減に寄与できるのではないかと考えています。
村上 データに関していうと、すべての領域でその必要性を感じています。損害保険事業では、アンダーライティングでのデータ活用を進めています。
損害保険ジャパンでは1つの情報基盤のうえに、Palantirの『Foundry』を使って、過去の損害率やさまざまな情報を効率的に収集し、簡単な事案に関しては、自動的にアンダーライティングの結果を出せるようになっています。将来的にはそのデータを使って、より高度なアンダーライティングを実現しようとしています。また、大規模な災害が起こると、お客さまからの保険金請求が集中しますが、デジタル化されることで、複数の人が同時に情報にアクセスでき、効率的に災害時の保険金のお支払い手続きを進められるようになります。
アルバート DXの種をまき、事業を通じて刈り取っていくことは非常にエキサイティングなことだといえます。ここからは、これまでの種まきをどのように収穫していくのかというビジョンについてお聞かせください。
村上 損害保険事業は大きなトランスフォーメーションが必要な時期にきており、デジタルでしっかり寄与していきたいと考えています。単に1つのビジネスプロセスをデジタル化するだけでなく、それぞれのデータがつながることによってビジネスプロセス自体のトランスフォーメーションを目指すというのが、将来のビジョンです。例えば、アンダーライティングで実施している過去の契約情報、事故情報や支払保険金によるリザルトデータの活用に留まらず、それらの膨大なデータをさらに活用したデータドリブンの商品改定や引受方針改定をさらに加速させていきたいと思います。
私たちは、全社員がデータを活用できることを目指しています。一人の担当者から、役員、社長に至るまで、データを見ながら、会社の経営、業務を進めていくことが重要だと思います。まさにデータがすべてのビジネスプロセスをつなげ、それによってビジネスプロセスが変革されていくということです。
西川 SOMPOひまわり生命では、健康応援企業への変革を掲げてきているなかで、勝ち筋が見えてきました。例えば、健康になったら保険料が割引されるという「健康☆チャレンジ!制度」を使ったお客さまは、使っていないお客さまに比べると入院率が半減するという明確なファクトが見えてきたのです。さらにこの「健康☆チャレンジ!制度」を後押ししていくためのデジタルのサービス、いわゆるインフラが充実してきたことなどです。
この勝ち筋をより明確な太い線にしていくことが、次のチャレンジです。具体的には、お客さまが健康に向かって行動変容していくという仕組みを作ることが、お客さまを健康にし、当社の健康応援企業としてのブランド確立につながり、それらによって、新しいお客さまが増えていく新たな循環を生みだすということです。そのためには、データを活用して一人ひとりに適した「Insurhealth®」やサービスを開発し、一人ひとりが望むタイミングで提供する仕組みを作ることが重要です。社内外のデータを組み合わせ、この仕組みを作っていくことが、SOMPOひまわり生命のホライゾン2であり、それが生保リアルデータプラットフォームの実現につながっていくと考えています。
岩本 健康で長生きすることをどう実現するかについて、どこにフォーカスし、何ができるかをデータを駆使して考えることが必要です。1つ目は、入院をしなくてすむよう、早めに変化に気づくことで早期の対応に結びつけることにデータを活用していくことです。2つ目は、もう少し長い目で見たとき、多数のご利用者さまの日々の生活ログが取れているなかで、似通った状況の方の過去実績からその人の将来状況を推測することも可能になってきています。これらの推測情報から重度化予防、自立支援に資する活動をしていく試みを、検討し始めているところです。
アルバート データの力は、入居者の生活の質を向上させるだけでなく、介護士が提供するケアの質も向上させるものです。海外保険事業の今後のビジョンはどうでしょうか。
アルフレッド データはビジネスに命を吹き込む動脈であり血液です。データ主導の意思決定とは、主観を排除し、科学的な意思決定を行うことです。会社の将来の成長と成功の鍵になるはずです。初期のステージでは、損失の原因や理由を分析することで、より良いビジネスを展開することができます。発展したステージでは、社内外の複数の情報源から得られるデータを総合的に分析することが、収益性を高め、ビジネスの構造的な強さを改善する鍵になります。
データの精度も重要な要素になります。私たちは「リコンシリエーション・レポート・システム」というものを導入しました。これは、一連の複雑なレポートが毎日、自動的にすべてのトランザクションを照合し、アプリケーション間の情報が正しいかを検証していくものです。すべてのものを自動化し、照合することによってエラーにリアルタイムもしくは期間内で気づくことができる仕組みです。
アルバート 皆さんありがとうございます。SOMPOのユニークネスの1つは、私たちCDOがそれぞれ独自のビジョンや視点、取組みを持っていることです。私たちは、DXに関する専門知識を結集し、デジタルとデータにおける部門横断的なコラボレーションを促進するために、CDOアライアンスを結成しました。CDOアライアンスの協力関係の強さや私たちがグループにどのように貢献できるかについてお聞かせください。
村上 保険に関する技術を表す言葉にインシュアテックという言葉がありますが、その要素や技術を見てみると、それは決して保険に限らないわけです。例えば画像を見て何かを判断する、アバターを使ってお客さまとインタラクションするなど、保険に限らず介護などの分野でも活用できそうな共通の技術は多くあります。こういった技術に関する動向や、PoC(実証実験)の結果などをこのアライアンスで共有していきたいと思います。
アルフレッド 最初に思いつくのはアイデアや成功例の共有です。加えて私たちは、ほかの業界から多くのことを学ぶことができます。私たちは保険・介護業界でそれなりに成功してきましたが、これらの業界から学び、得られるものは限られています。他業界から学び、それを私たちのソリューションの中に取り込み、進化させるべきです。そうすれば、私たちはさらに大きなホライゾンを開けると思います。
西川 他事業の取組みの成功や失敗を疑似体験でき、それを学び、自分たちの取組みに活かしていけることが、アライアンスのいいところだと思っています。もう1つは、人材育成などで協力できるのではないかと考えています。各事業でDXに取り組んでいるメンバー同士の交流などを通じて、ほかの事業がやっていることを知り、それを自分の会社に持ち帰って発展させていくことができれば、育成をより早く進めていける環境を作り出せるのではないでしょうか。
岩本 生成AIを使い始めることを想定した場合、例えば高齢者の健康に関して介護・生命保険の間でノウハウや事例の共有ができるだろうと思います。そのようなアイデアがアライアンスの中で議論され、具体的になることに期待していますし、一緒に取り組んでいきたいと思っています。
アルバート もう1つの重要な視点として、デジタル部門以外で働く同僚にDXを推進するためにどのような働きかけができると思いますか。
岩本 デジタルデバイスを「使ってください」と言うだけではなかなか使ってくれないですが、「これを使うと、あなたが担当している利用者にこんないいことがある」ということまで伝えると、使ってくれるケースが増えます。伝える力を学んでいく必要があると実感しています。
西川 デジタルを使ってもらうのは、現場に何か解決しなければいけない課題があるからであり、その課題を解決することに効果があるということを小さくてもいいから実感してもらう、見せていく、ということが必要だと考えます。
そういう意味では、先ほど岩本さんがおっしゃった伝える力も大事ですし、小さな成功をいくつも作って、目的や達成感を実感してもらうことが一番の特効薬です。
皆からアイデアを募って、何かやってみよう、うまくできたじゃないか、また次やろうよ、というムーブメントを大きくしていくことが大事だと思います。
アルフレッド 私たちの場合は少し状況が違います。SOMPOインターナショナルではテクノロジーに対して貪欲です。課題は、テクノロジーですべてのビジネス上の問題を解決できるわけではないということです。AIについては、特に一番難しい問題だけをやるようにしていますが、同時に適切に使わなければリスキーだということも教えなければなりません。私たちデジタル部門側の問題は、どのテクノロジーを使うか、一番メリットがあるのはどこかを見つけることです。それが私たちのアプローチであり、悩みです。ユーザーにテクノロジーはすごいと感心させるステージはもう終わっていて、規制やコンプライアンスに準拠しないとリスクがあることを教える段階に来ています。
村上 アルフレッドの話を聞いていて、人は今うまくいっているものを変えたくないという思いが強いことが問題だと思いました。
その壁を超えるためには、簡単な案件のプロセスの一部を機械にやらせることへの障壁を下げる必要があります。その結果、人に時間の余裕ができてくれば、難しい案件や付加価値の高い仕事により時間をかけられます。あるいは、将来的にはAIが非常に高度なことをすると思いますが、それが正しいかどうかを専門性を持った人が最終的に確認する、テクノロジーの統合を進め、人が人にしかできないことをしっかりと行なっていくためにテクノロジーを活用する、ということへの信頼を築いていくことが大事だと思います。