(2023年8月発行)
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SOMPOのパーパス経営

社外取締役鼎談

持続的成長に向けたカルチャー変革
MYパーパスを起点としたチャレンジとイノベーションにあふれるカルチャーへの変革に向けて 

取締役(社外取締役)
遠藤 功

取締役(社外取締役)
山田 メユミ

グループCSuO
下川 亮子

MYパーパス起点のカルチャー変革

下川 SOMPOグループは、「会社の中の自分」というこれまで日本において支配的であった働き方のパラダイムから脱却し、人生の目的、働く意義である「MYパーパス」を起点としたパーパス経営に取り組んできました。MYパーパスに突き動かされるカルチャーを醸成し、それを持続的成長や企業価値向上の原動力にしていこうというものです。そしてSOMPOらしい価値創造、すなわち社会課題の解決によって人々に幸せを提供しサステナブルな成長を追求していくことが、パーパス経営の本質であると考えています。
この3年間、さまざまな施策を展開してきましたが、カルチャー変革は一朝一夕に成し遂げられるものではないため、これらの施策を単発のイベントで終わらせることなく、つなげて、連動させて展開することを意識しています。例えば、トップの発信として実施しているタウンホールミーティングでのテーマや発信内容を受け、MYパーパス研修やマネジメント層向け研修といった現場の施策を連動して実施し、またエンゲージメント・サーベイなどによってその効果や進捗を測定してきました。2022年度からは、MYパーパスを起点としたチャレンジを促すだけではなく、チャレンジした人を賞賛・応援し、そのようなカルチャーへの変革につなげていこうとグループ横断の表彰制度である「SOMPOアワード」を創設しました。
もう1つ取り組んでいることは、「インパクトパス」の構築です。MYパーパスの追求を土台とするさまざまな取組みが、チャレンジ意欲の向上につながるというメカニズムを可視化し、データ分析などを通じそのエビデンスを示すことで、私たちのストーリーの説明能力を上げることに取り組んでいます。
このように、試行錯誤しながら進めていますが、まずは当社グループのこのアプローチや考え方について、遠藤さん、山田さんのご意見をお聞かせください。

遠藤 多くの日本企業が会社と個人の関係性を根本的に変えるというパラダイムシフトが必要な時期に来ていると考えますが、SOMPOグループは、先進的な取組みをしていると評価しています。しかしこのような会社・個人双方にとってのパラダイムシフトは、極めて本質的な意識改革が求められ、数年やったからといって簡単に変えられる話ではありません。あの手この手で、5年10年かけて徐々に変わっていくものと認識しています。そのスタートとしては、いろいろなチャレンジをしていますし、目に見える変化も出ています。長い取組みですから、メッセージをいかに発信し続け、やり続けるかが大事です。方向性については大賛成ですし、こういった取組みをしていかないと日本の企業は生き残っていけないと思います。

山田 私もパラダイムシフトは、今まさにもっとも必要とされる考え方だと思っています。会社と個人の関係性が変わることはもちろんですが、今はこれだけ地球規模の自然災害が頻発していて、「異常」が日常的な世界になってきています。温暖化や地政学的リスクなどの社会課題を地球市民として日々体感していない人はいないと思います。特に若い世代は、自分事として危機感を持っていますし、その先の子供たちの社会を考えたときには、大人の責任としてやらないといけない課題が山積しています。そのようななかで、企業は、経済価値の追求との両輪で社会へ貢献することを大前提にしないと、特に若い方々は仕事のやりがいを感じられないと思います。
ですから、パーパス経営はとても理にかなった手法だと思います。私も先日、SOMPOアワードの投票に参加をさせていただきました。みなさんが社会課題に対して真摯に考え、周りを巻き込みながら取り組んでいる、こういったことがボトムアップでも起きていることに感銘を受けました。

下川 ありがとうございます。当社が100年後も社会から必要とされる存在でいるためには、私たち自身が成長し変わっていかないといけない。そのためには、根本のところをパラダイムシフトしないといけない。そういった想いで、この大きな改革に取り組んでいます。社会課題でいえば、会社としても個人としても、より大きな社会課題に取り組むことによって成長できるものと理解しています。

取組みによる変化

下川 次に、この3年のさまざまな取組みによって見えてきた社員の変化についてお話しします。私の実感としては、大きく3つあります。
1つは、個人の変化です。私はMYパーパスの取組みを、社員のI&D(インクルージョン&ダイバーシティ)を目覚めさせる活動だと思っています。策定を通して、自分のやりたいこと、働く意義、あるいはゴールに気付いている社員が徐々に増えていると感じます。また、MYパーパスを職場で共有する活動を通じて、周りのメンバーの「個」も意識し始めたとも感じています。
2点目はマネジメント層についてです。個に目覚めた社員たちをマネジメントすることは、これまでになく難易度が高いと思います。MYパーパスは、持つことがゴールではなく、そこからチャレンジを引き出すことが本来の狙いです。マネジメント層へのアンケートを見ると、そこに至っているのは全体の45%程度です。彼ら彼女らの悩みとしては、MYパーパスをテーマにどのようにメンバーと対話し、マネジメントしていくか、あるいは、MYパーパスとSOMPOのパーパスや職場におけるミッション・仕事をどのようにつなげ、チームを束ねていくかという点に難しさを感じているようです。
3点目は、SOMPOアワードから見えてきたことです。これは良い意味で想定外だったのですが、全世界から993件の応募があり、その取組みを評価する社員投票には約7,500票集まりました。多くの社員が挑戦にエールを送りたいと考え、他の社員の挑戦にも関心を持っていることを改めて実感しました。また、応募された取組みから、多くの社員が新たな社会課題解決と自身のやりたいことの実現について考え、実際に行動に移していることを認識しました。
一方で、挑戦したいとまでは思っていない社員、あるいはチャレンジ意欲はあっても行動には移せない社員もまだまだ多いのは事実で、依然道半ばと感じています。これらの変化や今後の課題に対して、アドバイスいただけますか。

山田 SOMPOアワードの動画を見ましたが、まず社員の皆さんのエネルギー量の大きさにはとても驚かされました。 一方で、職種・業務によっては、MYパーパスや自分が解決したいと思う社会課題と自身の仕事とをつなげにくいという方もいるのではないかと思います。今回のアワードは、社員の皆さんにいろいろな刺激を提供されたと思いますが、これをスタートに、より多くの皆さんが自分事化できる形を目指してブラッシュアップを重ね、このアワードをより価値あるものにしていただけたらと思います。

遠藤 一般的に、組織には2・6・2の法則があり、問題意識が高くやる気のある人は2割ぐらいです。今はこの2割の人たちの動きが表出してきているのだと思います。問題はあとの8割の人たちで、現実にはそういった波に乗れないという社員も多く存在すると思います。最終的なゴールであるカルチャー変革は、経営層の働きかけから脱し、現場の人たちが自立・自走していくことです。そのため現場でこういった活動をリードできるコアとなる人材を見つけ、教育し、モチベートしながら、遠心力を発揮していかなければなりません。このような主体性を発揮する人たちがマジョリティになると、雰囲気が大きく変わってくるはずです。先ほど下川さんのおっしゃった数字を見ても、まだ5割には達していませんから、ここに次のチャレンジがあるのだろうと思います。
今は個のチャレンジですが、チャレンジするのが当たり前という空気感の職場をどう増やしていくのかが最終ゴールなのだと考えます。今後それぞれの職場単位でお手本ができてくることが必要ですね。

写真:下川 亮子

下川 やはり、マネジメント層が鍵ということですよね。これまでの活動は、上位2割の火付け役を作り出すものであり、これによってマネジメント層にも少しずつ火がつき、一部の組織に良い影響を与え始めています。これをマジョリティにするという視点では、やはり地道にやるしかないということですよね。

遠藤 地道にやることと、やはり部長や課長といった管理職の意識や行動がとても大事です。問題意識のある個人には火はついても、共感してくれる人が少なく上司に理解されなければ、やる気が萎えてしまいます。「目の前の仕事で忙しいからカルチャー変革は後回し」というのは間違っています。自分たちの業務で成果を上げるためには、良いカルチャーを作り、個人の主体性を発揮することこそが先です。こうしたことを理解している管理職はどれほどいるでしょうか。いろいろな会社を見ても、管理職が忙しすぎて本気で取り組めていない。職場単位で良いカルチャーをつくっていくことが重要なポイントであり、大きな課題だと思います。

「イノベーション力」とは

下川 カルチャーを職場単位で作ることの重要性はよく理解できました。それに加えて、企業価値を高めていくためには、新たな領域や既存ビジネスにおいても広い意味でのイノベーションを起こしていかないといけないと思っています。イノベーション力とは何か。つまりイノベーション力を上げるために、会社や社員はどのような力を身に付けたらよいのでしょうか。

山田 もっとも重要なことは、課題設定力ではないでしょうか。社会課題にどうアプローチすれば、少しでも良い方向に向かうのか、それを見出す視点が重要だと思います。それは必ずしも技術的な発見ではなく、既存の事業や業務のあり方を見直す、再設計するという意味でもあります。
加えて強い意志です。強い意志をもって取り組むエネルギー量の大きい組織が、イノベーションを生み出すために必要な最低条件だと思います。

遠藤 卓越した個人がだれも思いつかないようなアイデアや発想を生み出すことをイノベーションと考えがちです。もちろんそういった欧米的、演繹法的な個によるイノベーションもある一方で、日本的、帰納法的なイノベーションもあると思います。
例えば「カイゼン」という言葉があります。まず自分たちの職場を改善し、サービスも改善する。その延長線上に、お客さまにこういうサービスを提供したらもっと喜んでくれる、もっと社会に貢献できる、といったアイデアが現場から帰納法的に生まれてくる。最初は小さな挑戦、小さな変化で良いのです。それが当たり前のように起きてくる。これがイノベーションを起こせる組織になるということだと思います。そのためには現場で問題解決、創意工夫ができる人材をどう育てるかが大事です。
“カイゼン”がカルチャーになれば、これは強いです。だれかに言われなくとも、皆がカイゼンのネタを探すようになるわけです。そのなかから大きなイノベーションが起きたりもします。
山田さんのおっしゃるとおり、カイゼンにはまず課題設定が必要ですし、それができる個人・チームを増やしていく。その好事例を紹介して「こういうカルチャーに変えよう」という前向きな空気感を作りだすことがカルチャー変革だと思っています。

写真:山田 メユミ

山田 多くのスタートアップは、何もないところから志だけでスタートして、何かを成し遂げようともがいていくわけです。成し遂げたいことが明確であるからこそ、使えるツテや自分たちの持てるソリューションないしは周りのサポートを引き出して、ゼロ・イチを生んでいく。そのためのHOWをものすごく考え続けるわけです。トライ&エラーで大量の失敗をしながらも、なんとか一歩ずつ前進していく。能動的に、それぞれの立場で、より良い仕事、つまりはカイゼンを一歩一歩積み重ねていく。こうすることでしか、ゴールは目指せないのだと思います。

遠藤 私は「足元改革」と言っているのですが、自分たちの足元のところも変えられない人間が、大きなものを生み出せるはずがないと思っています。足元改革をするにもチャレンジ精神、フロンティア精神が必要です。経営層はもっと自覚しないといけないのですが、やはり大きな組織ほど組織の重さと距離感があるものです。現場の社員が何かを変えようとするのは、ものすごく勇気がいるのです。ですから、その勇気を発揮できる主体性のある人材が、まずは足元を変えていく。そういったことが現場で自律的に行われていると、良い空気が生まれてくると思います。私はそれがまさにカルチャーだと思っていて、そのような空気をどう増やしていくのか、それが今後とても大事です。せっかく火が付いた人が萎えてしまうことが起きないように上手く誘導したいですね。

山田 どうしても日本の組織は協調的であることを求められて、ある種お互いの共依存関係に陥ってしまいがちです。いかに自立した個人の集団であるかという点は、結果的に会社へのエンゲージメント向上にも直結していると思います。会社がいかに自立性を持って働ける、失敗も許容される環境を作っていけるかということに尽きると思います。

下川 当事者意識と主体性を持った社員を増やし、かつそれを応援する、阻害しない職場環境が大切で、その結果、社員一人ひとりが生み出す価値が上がり、その総和としての会社の価値が上がっていくということですね。

今後に向けた期待

下川 最後に、カルチャー変革を通じて企業価値向上を実現できる会社だとステークホルダーから期待していただけるようになるためには、何が必要でしょうか。

山田 SOMPOの場合は、関わる領域が社会課題と直結しているので、より生活者の期待が高いと思います。会社のベースにあるカルチャーが生活者に透けて見える時代です。生活者、ひいては社会から選ばれる存在であるために、より共感を得られる活動に力を入れていく必要があります。
社内にいるとどうしても短期的成果や、業界内の動向などに目が向きがちになるかと思いますので、社外取締役としては、できるだけ第三者的により多様なステークホルダーの視点を意識しながら、当社は社会に対してどのような価値貢献ができるポテンシャルを有しているのかなど、できるだけ俯瞰して発言させていただくことが役目であると考えています。

写真:遠藤 功

遠藤 昨今、日本でも優秀な人材が大手企業を辞めてスタートアップに集まるという事象が起きています。その最大の要因はカルチャーです。当然ですが、良いカルチャーを持っている組織でないと、良い人材は定着しないし集まらないわけです。経営としては、そうしたカルチャー・ファーストの時代になっているということを強く認識して、優秀な人的資本を集積できる会社であり続けなければなりません。そして、それを最終的には企業価値に結び付けていかなければなりません。もう「大企業だから」、「有名だから」という理由だけで、当社が選ばれなくなっていることを強く意識することが大事です。
加えてもう1点は、すごく良いことをやっているので、こういった取組みを行う社員をどう評価してあげるかを考えることが必要です。挑戦した人がしっかりと評価される、挑戦しなかった人は評価されない。そのようにしていかないと、カルチャーとして根付いていきません。新しいことにチャレンジした人、主体性を発揮した人が高く評価されるような環境を作っていくことが真のカルチャー変革につながっていくと思います。

下川 おっしゃるとおり、評価制度への反映などカルチャーとして定着させる、その変革のスピードを上げていくための施策はまだ足りていないので、意識して取り組んでいきます。
当社グループで行っているさまざまな人的投資の効果をあげる大前提にカルチャー変革があり、投資家、生活者、あるいは社会から見ても、カルチャー変革は企業価値向上のいわば先行指標であると感じました。社会からの信頼を前提に MYパーパスとSOMPOのパーパスの実現に向けて挑戦しつづける、7万人以上の社員を抱える企業グループのカルチャーをそのように変革することはたやすいものではないと重々承知していますが、一歩でも前進すべく、グループ一丸となって日々取り組んでいきます。引き続き、皆さまに変化を感じていただけるように、必要な手を打っていきたいと思います。