気候変動は自然災害の激甚化や発生頻度の上昇、干ばつや慢性的な海面水位の上昇など、地球規模でさまざまな影響を与える社会課題であり、人々の安心・安全・健康な生活に脅威をもたらし、損害保険を主要な事業とする当社グループにとっては、経営に重大な影響を及ぼすリスクととらえています。
そのため、当社グループでは気候変動を重要な取組課題と位置づけ、中期経営計画の取組方針として「SOMPO気候アクション」を掲げグループ全体で戦略的に取組みを進めています。
当社グループは、1990年代初頭から幅広いステークホルダーとの協働を通じて地球環境問題に取り組んできました。時代を先取りした30年以上にもわたる環境への取組みは当社の強みであり、これに中期経営計画で掲げるパートナーシップ戦略をかけあわせることで、気候変動への適応、緩和、社会のトランスフォーメーションへの貢献の3つのアクションを実践していきます。そして、ステークホルダーとともに、人と自然が調和した包摂的でレジリエントなカーボンニュートラル社会の実現を目指していきます。
4つの基本方針 | 具体的取組み |
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グリーントランジションプランの策定・実行 | 投融資先の温室効果ガス(GHG)削減の取組み
保険引受・投融資を通じた貢献
※詳細は「ESGに関する保険引受・投融資等に関する方針」を参照 |
気候戦略・リスクへの対応体制強化 | グループサステナブル経営推進協議会の改編
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気候リスクフレームワークの高度化 | 新たな気候リスクフレームワークの構築
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気候関連ビジネス機会への対応 | 各事業における自律的な取組みの促進
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気候関連リスク・機会に適切に対応し、当社グループの持続的な成長と企業価値向上を図るための当社グループのガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標は以下のとおりです。
なお、TCFD提言にもとづく詳細開示は、公式WEBサイト(気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への対応)、有価証券報告書またはサステナビリティレポートをご参照ください。
1.ガバナンス
(1)取締役会の役割
当社グループは、「SOMPOのパーパス」実現に向けた重点課題であるマテリアリティの1つとして「経済・社会・環境が調和したグリーンな社会づくりへの貢献」を掲げています。
取締役会は、グループ全体の戦略や方針を定めるとともに、パーパス実現に向けた執行役および執行役員の業務遂行状況を監督する役割を担っています。
(2)執行役・執行役員の役割
グループCSuO(Chief Sustainability Officer)は、サステナビリティ領域の最高責任者として、サステナブル経営戦略の策定・実行を担っています。気候変動をはじめとするグループのサステナブル経営戦略については、グループ各社のCSuO(サステナビリティの統括責任者を含む)およびCSOから構成される「グループサステナブル経営推進協議会」において、関連するリスク・機会の状況をふまえてこれらへの対応について協議することで、グループCSuOの意思決定を支援するなど、グループ全体のサステナビリティ推進体制を構築しています。また、グループCSuOの業務執行のサポート機能としてサステナブル経営推進部を設置しています。
リスク管理については、取締役会が定める「SOMPOグループERM基本方針」にもとづいてリスクコントロールシステムを構築しており、グループCEOの諮問機関であるGlobal Executive Committeeの下部組織であるグループERM委員会などを通じて、グループCRO(Chief Risk Officer)が各事業の抱えるリスクを網羅的に把握・評価し、当社グループに重大な影響を及ぼす可能性があるリスクを「重大リスク」と定め、その管理状況を定期的に取締役会およびグループCOOの諮問機関である経営執行協議会(Managerial Administrative Committee)等に報告し、対策の有効性などを検証しています。
2.戦略
2021年度からの中期経営計画では、気候変動リスク・機会に対する複合的なアプローチを実践する「SOMPO気候アクション」を掲げ、気候変動への「適応」、「緩和」、「社会のトランスフォーメーションへの貢献」に関する取組みを行っています。詳細につきましては、「SOMPO気候アクション」をご覧ください。
(1)気候関連のリスクと機会
気候変動の進展による自然災害の激甚化や発生頻度の上昇、干ばつや慢性的な海面水位の上昇などの「物理的リスク」、脱炭素社会への転換に向けた法規制の強化や新技術の進展が産業構造や市場の変化をもたらし、企業の財務やレピュテーションにさまざまな影響を与える「移行リスク」やこれに付随して発生する賠償責任リスクが顕在化する可能性があります。
当社は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、NGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)など外部機関の研究成果をふまえて、気候変動が事業に与えるリスクと機会を整理し、中期(5~10年後:2030年頃)および長期(10~30年後:2050年頃)の時間軸で評価・分析・対応を進めています。
環境変化 | 当社への影響 | リスク | 機会 | ||
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物理 | 急性 | 台風・ハリケーンの頻度・強度の変化、干ばつ、山火事の増大 | 気象災害の激甚化など | ● | — |
農業保険収支の悪化 | ● | ● | |||
慢性 | 海面上昇、平均気温の上昇、森林減少、生物多様性影響 | 海面上昇に伴う浸水による保険金支払いの増加 | ● | — | |
不動産市場の下落(資産価値の下落) | ● | — | |||
政情不安・紛争 | ● | — | |||
新たなパンデミック | ● | — | |||
移行 | 政策 | 再生エネルギー、省エネルギー関連の政策推進 | 株式・債券市場の価格変動 | ● | ● |
エネルギー価格の上昇 | ● | — | |||
法律 | 賠償制度や法改正、新たな法解釈 | 気候変動訴訟などの法的リスク | ● | ● | |
技術 | 蓄電、新エネルギーなどの新技術 | 新技術普及による脱炭素化 | ● | ● | |
市場選好 | 環境配慮型企業への投資および消費者の選好 | レピュテーション | ● | ● | |
消費者行動の変化 | ● | ● |
(2)シナリオ分析
ア.物理的リスク
損害保険事業は、台風や洪水、高潮などを含む自然災害の激甚化や発生頻度の上昇に伴う想定以上の保険金の支払いによる財務的影響を受ける可能性があります。リスクの定量的な把握に向けては、2018年以降、大学などの研究機関と連携することで科学的知見をふまえた取組みを進めており、「アンサンブル気候予測データベース:d4PDF(database for Policy Decision making for Future climate change)」などの気象・気候ビッグデータを用いた大規模分析によって、台風や洪水、海面水位の変化の影響を受ける高潮の平均的な傾向変化や極端災害の発生傾向について、平均気温が上昇した気候下での長期的な影響を把握するための取組みを行っています。また、5~10年後の中期的な影響を分析・評価し事業戦略に活用しています。
また、UNEP FI(国連環境計画・金融イニシアティブ)のTCFD保険ワーキンググループが2021年1月に公表したガイダンスにもとづく簡易な定量分析ツールを用いた台風に関する影響度の試算を行っています。気候変動リスクへの金融監督上の対応を検討するNGFS(気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク)が検討を行っているシナリオ分析の枠組みも活用して、引き続き分析を進めていきます。
<試算結果>
台風の発生頻度 約▲30%~+30%
1台風あたりの損害額 約+10%~+50%
イ.移行リスク
脱炭素社会への移行が当社におよぼす中長期的なインパクトを把握するため、NGFSシナリオを前提に、脱炭素社会への転換に向けた法規制の強化や世界経済の変化が企業におよぼす「政策リスク」と気候変動の緩和や適応に向けた取組みによる「技術機会」についてMSCI社が提供するClimate Value-at-Risk(CVaR)を用いて、当社グループの保有資産に及ぼす影響を分析しています。
加えて、移行リスク削減に向け、脱炭素化への取組みが進んでいない企業への働きかけを促進することが重要であることから、同社が提供するImplied Temperature Rise(ITR)を用いて、当社の投資先企業が2100年度までに2℃の温暖化に抑える目標と整合的なGHG排出量削減目標を設定しているのかを定量的に分析しています。
※移行リスク分析結果につきましては、公式WEBサイト
(気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への対応)、有価証券報告書またはサステナビリティレポートをご参照ください。
(3)レジリエンス向上に向けた取組み
気候変動に対するレジリエンスを高めるための当社グループの主要な取組みは次のとおりです。
ア.リスクへの対応
カテゴリー | 取組内容 |
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投融資先への取組方針 |
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保険引受の取組方針 |
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自社のGHG削減 |
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イ.機会への対応
カテゴリー | 取組内容 |
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エネルギー源 |
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製品・サービス |
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市場 |
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3.リスク管理
自然災害リスクを含む気候変動リスクに関しては、気候変動が保険事業以外を含めた当社グループの事業のさまざまな面に影響を及ぼすこと、その影響が長期にわたり、不確実性が高いことをふまえて、既存のリスクコントロールシステムを補完し、長期的な気候変動がさまざまな波及経路を通じて当社グループに影響を及ぼすシナリオを深く考察してリスクを特定・評価および管理するための気候変動リスクフレームワークを構築しています。
気候変動リスクフレームワークでは、気候変動の複雑な影響を捕捉するために「環境変化の特定」「当社グループへの影響を議論」「リスクおよびコントロールの評価」を行います。
評価結果をふまえて継続的なモニタリングが必要なリスクは「気候変動リスクマップ」として可視化し、主に保険引受および資産運用に影響を与えるリスクの影響度、可能性、発現時期、傾向などを俯瞰することで、取締役会および執行の諸機関における気候変動に関する議論の活発化を図っています。
※気候変動リスクフレームワークの詳細につきましては、公式WEBサイト(気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への対応)、有価証券報告書またはサステナビリティレポートをご参照ください。
4.指標と目標
(1)主な指標
温室効果ガス(GHG)総排出量
(単位:tCO2e/百万米ドル) | ||
年度 | 株式 | 社債 |
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2019 | 119.60 | 121.07 |
2020 | 100.58 | 133.77 |
2021 | 125.05 | 167.04 |
【第三者機関による保証】
SOMPOホールディングスでは、報告数値の信頼性を確保するため、温室効果ガス排出量(スコープ1~3)について、British Standards Institutionによる第三者検証を受けています。
*1 スコープ1(ガソリンなどの使用による直接排出)、スコープ2(電力などのエネルギー起源の間接排出)、スコープ3(輸送や出張など、バリューチェーン全体における間接排出)の合計値です。算出対象範囲は、当社および主要な連結子会社です。なお、2017-2021年度の排出量は、2022年度の算出基準で再計算しています。
*2 MSCI ESG Research社が提供するデータを使用し、国内外の上場株式と社債の投資先におけるスコープ1およびスコープ2を対象に算出(上場株式のカバー率は86%、社債のカバー率は82%、いずれも時価ベース)。GHG排出量は投資先のEVIC(Enterprise Value Including Cash:現金を含む企業価値)ベースに対する当社持分であり、WACIは、各投資先企業の売上高あたりのGHG排出量をポートフォリオの保有割合に応じて加重平均した値。なお、数値データは遡及修正される可能性があります。
*3 2021年度の数値からWACI算出方法が変更となりました。
(2)主な目標
スコープ1,2,3 (除くカテゴリー15・投融資) |
スコープ3 (カテゴリー15・投融資) |
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2025年 | 25%削減(2019年比) | |
2030年 | 60%削減(2017年比) | |
2050年 | 実質ゼロ | 実質ゼロ |