(2023年8月発行)
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戦略

写真:濵田 昌宏

グループCFO/CSOメッセージ

グループのさらなる成長と企業価値向上に向けて、中期的な収益向上策と適切な資本政策を遂行していきます。

グループCFO兼グループCSO

濵田 昌宏

経営数値目標の進捗

2021年度から開始した当社の中期経営計画は、最終年度である2023年度の修正連結利益3,000億円以上、修正連結ROE10%以上を経営数値目標として掲げてきました。これまでの2年間で、国内損害保険事業における収益構造改革や海外保険事業の成長など、中期経営計画で掲げた取組みは順調に進展し、ベースの収益力は着実に進展しました。

一方で、この2年間で、国内損害保険事業を中心に事業環境が大きく変化しました。具体的には、自然災害の激甚化・多発化、大口事故なども含めた火災保険の収支悪化、新型コロナ禍後の自動車事故の想定以上の増加、インフレによる自動車保険の修理費単価の高騰などにより、国内損害保険事業の収益環境は厳しくなりつつあります。これらの影響をしっかり織り込んだ結果、2023年度のグループの修正連結利益は2,800億円と、中期経営計画の目標に若干届かない見込みとなりました。一方で、2023年度の修正連結ROEについては、株主還元や政策株式の削減といった資本政策の効果などもあり、目標の10%を超える見込みです。

修正連結利益・修正連結ROEの推移
2023(予想)修正連結利益(億円)2800、修正連結ROE10.0%以上。

中期経営計画期間の収益向上策

修正連結利益に占める海外保険事業比率(平年値ベース)
2022年度、修正連結利益:2250億円、修正連結ROE8.1%。

中期経営計画のこれまでの2年間を振り返ると、2022年度の新型コロナ関連の入院給付金増加などの一過性要因を控除した平年値ベースの修正連結利益は2,250億円となり、前中期経営計画の最終年度である2020年度の2,021億円からは着実に成長しました。トップラインについても、レートアップ環境を追い風に海外保険事業を中心に高い成長を実現し、グループ全体で年率10%以上の規模の拡大を実現しました。また、このレートアップやボルトオンM&Aなどによる海外保険事業の拡大がグループ全体の修正連結利益を牽引した結果、グループにおける海外事業比率はこの2年間で30%程度増加し、グループ利益の分散・安定化も進みました。

国内における各事業の進化

国内損害保険事業は、中期経営計画で掲げた収益構造改革を着実に進めてきました。保険契約の収支に見合ったプライシングの適正化、パランティアのデータ解析技術を活用したアンダーライティングの強化、デジタルを活用した業務プロセスの改善による生産性向上など、いずれの取組みでも当初の計画以上の効果が発現しています。

国内生命保険事業は、新型コロナの影響に関連した一過性の保険金支払いにより2022年度は収益が悪化しましたが、保険機能と健康増進機能を兼ね備えたInsurhealth®商品の継続的な投入により、トップラインは順調に伸びており、修正利益も中期経営計画目標を達成する見込みです。

介護・シニア事業では、リアルデータプラットフォーム(RDP)『egaku』の開発が順調に進展しました。加えて、介護ソフトウェアで業界トップクラスのマーケットシェアを持つNDソフトウェアを買収するなど、外販体制も強化し、社会課題解決に向けた事業基盤の整備が進みました。

さらに、各事業の取組みの着実な進展に加え、2022年度からは、グループベストの追求による利益創出「コングロマリット・プレミアム」の施策を新たに開始し、グループレベルでの適正なリスクテイクを進めました。第一弾として、保有・再保険、資産運用、マルチ・ナショナルの分野において事業横断で具体策を進め、2023年度に税引き後で150億円程度の利益積み増しを見込んでいます。

中期経営計画期間の資本政策

資本政策の面でも、資本効率の低い分野のリスク削減と成長投資への資本配賦などにより、中期経営計画の取組みは順調に進捗しています。主に損害保険ジャパンが保有する政策株式については、中期経営計画策定時は、年間500億円(中期経営計画期間累計で1,500億円)の削減目標としていましたが、さらなる資本効率の向上と資本余力の創出を目指し、2022年度から削減ペースを年間700億円に加速しました。中期的には、2030年度に政策株式の保有残高について、修正連結純資産対比で20%以下の水準まで削減する方針を打ち出しましたが、この目標も通過点であり、2030年度以降もさらなる削減に取り組む方針です。

政策株式保有残高の推移
2030年度保有水準目標20%以下(修正連結純資産対比)
写真:濵田 昌宏

金利リスクについては、中期経営計画策定時は、SOMPOひまわり生命において年間3,000億円(中期経営計画期間累計で9,000億円)の超長期債投入を目標としていましたが、2022年度は、金利の上昇局面をとらえて超長期債の購入ペースを加速し、4,893億円の超長期債を投入しました。結果、2022年度末時点での金利リスク量は、中期経営計画開始時点の3分の1程度まで縮小しました。

一方で、成長投資については、中期経営計画期間で6,000億円の投資枠を設定しました。これまでの2年間で、海外保険事業の資本増強や、介護・シニア事業でのNDソフトウェアのM&Aなどで、4,000億円程度の投資を実行しました。2023年度も当社の中長期戦略に適合する投資機会を探し、高い規律を持って、適正なバリュエーションで投資を行っていきます。

成長投資を支える資金調達面では、2022年には、「コングロマリット・プレミアム」の施策のために損害保険ジャパンとして初めての普通社債を発行しました。また、NDソフトウェアのM&Aにあたり、2023年に当社グループとして初めてとなるESG債(ソーシャルボンド)による調達を行いました。ソーシャルボンドは国内の保険グループとしては初の発行であり、当社の社会課題解決の取組みにご賛同いただいた多くの投資家の皆さまに投資表明をいただきました。

株主還元については、資本効率の向上と成長投資アペタイトとのバランスをふまえた魅力ある株主還元を目指してきました。具体的には、修正連結利益の50%を基礎還元としました。加えて、追加還元についても、透明性ある株主還元方針にもとづき、2021年度には資本水準調整として200億円、2022年度には、「減益時の前年度還元水準の維持」の観点をふまえた還元を行いました。また、配当についても利益成長に伴った増配を目標として掲げ、2014年度から10期連続の増配、中期経営計画開始時点からは年率20%超の配当成長を実現しています。

株主還元の推移
2023年度配当987(予定)、DPS300円(予想)、配当利回り5%以上。10期連続増配

なお、財務健全性については、経済価値ベースの自己資本比率指標であるESRは2022年度末時点で223%と、ターゲットレンジ(200%-270%)内で推移しています。成長投資の実行に加え、一過性要因による利益減少や、金融市場の変動による影響などを受けたものの、引き続き財務健全性に問題はありません。

このように、外部環境の変化によるグループ利益の下押しはありますが、中期経営計画における戦略面および財務面での各種取組みを着実に実行してきたことが、当社株価の上場来高値更新、J-GAAP基準のPBRの1倍超回復につながってきていると認識しています。一方で、現状でもなお、修正PBR(J-GAAP基準のPBRから日本固有の保険会計基準の影響を調整した指標)は1倍に届いておらず、取組みをさらに進化させることで、修正PBRの1倍超を目指します。

PBRの推移
2023/3/31 PBR(J-GAAP)1.1倍、修正PBR0.7倍。

今後の中期的な経営戦略

2023年度は、現在の中期経営計画の最終年度であるとともに、次の中期経営計画を策定する年でもあります。各事業は着実に成長している一方で、厳しさを増す事業環境を認識し、2023年度は、今の中期経営計画の取組みに加えて、さらなる中期的な収益向上策に着手しました。

国内外の損害保険事業では、レジリエンスのさらなる強化を目指します。国内では、特に収益性が悪化している火災保険の収益改善策として、保険料水準の見直しだけでなく、保険期間の短縮や補償内容の見直しなど、引受条件の改善を抜本的に行い、2020年代半ばに黒字化を目指します。さらに、生産性向上策として商品の統廃合による簡素化や組織体制の最適化を行い、高止まりしている事業費率を中期的に改善させ31%台を目指します。

海外保険事業では、これまで順調なトップライン成長を支えてきたレートアップの周期が徐々にピークアウトしていくなか、より収益性を追求したアンダーライティングの実施とともに、分散の効いた引受ポートフォリオを実現していきます。さらなる収益の安定化を目指し、地理的な拡大にも投資していきます。米国、英国に集中する既存ビジネスとの分散を目指し、カナダ、欧州、東南アジア地域への投資を計画しています。

国内生命保険事業と介護・シニア事業ではデータを活用した収益向上と社会価値の創造を追求していきます。

国内生命保険事業については、Insurhealth®商品の拡販を進めていますが、これらの契約から得られるリアルデータの分析を進めることで、お客さまの健康行動促進や新たなサービス提案につなげ、健康応援企業としてさらなる保険の拡販と健康増進の相乗効果を狙っていきます。

介護・シニア事業については、『egaku』の事業化を本格的に進めていきます。2023年に買収を完了したNDソフトウェアとのシナジーを含めて、2030年度までに売上高300億円、営業利益100億円、長期的には業界のデファクトスタンダードを目指します。そして、介護人材の需給ギャップの解消による社会課題解決を図ります。

こうした収益向上策や適切な資本政策を通じて、当社の株価・バリュエーション・企業価値の向上を目指します。その1つのベンチマークとして、PBRの向上を重要視しています。PBRは、ROEとPERに分解することができますが、特に国内外の損害保険事業は、グループの屋台骨としてレジリエンスを高め、シナジーを最大化しながらROE向上の原動力となります。一方で、国内生命保険事業や介護・シニア事業などを中心に、『egaku』に代表されるように、リアルデータを起点に新たな付加価値や社会価値を創造することで、投資家の皆さまからの将来の成長期待をしっかりと醸成し、PERの引き上げを目指します。

これに加えて、引き続き、魅力ある株主還元を実行していくことにより、修正PBR1倍超の早期達成を目指します。

今後の当社グループのさらなるビジネスの成長と企業価値向上にご期待ください。