統合レポート2024(オンライン版)
グループCEOメッセージ
ステークホルダーからの
信頼の回復と真のグローバル企業への変革に向けて

グループCEO
取締役 代表執行役社長

一連の問題を通じて明らかになったさまざまな課題を一つひとつ解決していき、お客さまやステークホルダーからの信頼回復に努めてまいります。
そして、「“安心・安全・健康”であふれる未来」を実現するために、グローバルな視点でお客さまのリスクをとらえ、最適なソリューションを提供できる「真のグローバル企業」へとSOMPOを変革していきます。
一連の問題を通じて明らかになった課題
はじめに自動車保険金不正請求問題や企業向け保険料の調整問題、また乗合保険会社におけるお客さまの保険契約情報の不適切な取扱いに関しまして、お客さま、関係者の皆さまに大変なご迷惑とご心配をおかけしておりますことを心からお詫び申しあげます。
これらの問題にはさまざまな原因がありますが、その根本にあるものは共通であると私は考えています。それは、事業を取り巻く環境が大きく変化するなかで、私たちが持つ価値基準をその環境変化にあわせて変えていくことができなかったということです。人口が増加傾向でインターネットも存在せず、損害保険業界が規制で守られていた1990年代またはそれ以前の価値基準を今の時代にまで引きずり、真の意味での競争を回避してきました。例えば、取引先企業に対する「本業支援」に依存した保険料収入の争い。これは私の知るかぎり日本特有の慣習です。このような価値基準を変えることができず、組織や私たち自身が内向きになり、上司にモノを言えなかったり、自分たちのロジックが正しいと思い込んだまま代理店やお客さまに押し付けたりという行動をとり続けてしまいました。本来であればお客さまのニーズにあったサービスを提供し、その品質や価値が評価された結果として、お客さまの数が増え、売上が上がるわけですが、基本的なことを脇に追いやり、世間の常識とはかけ離れた売上至上主義に走ってしまったと総括しています。
足元の外部環境に目を転じると、AIやデジタルの発展やライフスタイルの多様化によりお客さまのニーズが多様化し、さらには、自然災害の激甚化・頻発化、地政学リスクの高まりなどで不確実性が高まっています。日本では人口動態が変化し少子高齢化が進むことで、さまざまな課題が表面化しています。私たちはお客さまの価値観や社会の変化にしっかりと目を向け、自らの価値基準を変革していかなければならないと認識しています。そして、それらの変化を柔軟かつタイムリーに受け止めるためには、形だけのDEI(Diversity, Equity & Inclusion)ではなく、多様なバックグラウンドを持った社員のだれもが自らの意見を言うことができ、それを受け止める心をもった人や組織となること、すなわち本質的なDEIを伴った企業文化を醸成していくことが必要と考えています。同質性が高ければ、時代の変化に必要な新しい考えを潰してしまいますし、異なる意見を聞かなくなります。そうなれば不都合な情報は報告されなくなり、ビジネスモデルも働き方もすべてに現状維持バイアスが働いてきます。残念ながら、今回の一連の問題で、このような課題が組織のいたるところに根深く存在していることが明らかになりました。このグループで長年にわたり働いてきた者として、そして経営者として重く受け止めるとともに、深く反省しています。
このような非常に厳しい状況のなかでも、グループ一体となり前を向いて進んでいかなければなりません。まずやらなければならないことは、私をはじめとする経営陣の「言行一致」です。経営者として時代遅れの価値基準から脱却していくというメッセージを出し続け、それぞれが率先垂範し、言ったことをしっかりと実行していく。それを継続し、社員を鼓舞し、価値基準や行動を変えていくことが、結果としてステークホルダーからの信頼の回復につながっていくと信じています。
“安心・安全・健康”であふれる未来へ
グループとしての一体感を高め、前に進んでいくためには、今一度私たちが何のために存在し、何を目指していくのかをすべてのグループ社員、そしてステークホルダーの皆さまにわかりやすく伝えていくことが重要だと考えました。そのため、取締役および国内・海外の経営メンバーによる度重なる議論を経て、これまでの企業理念体系を見直し、SOMPOのパーパスを「“安心・安全・健康”であふれる未来へ」として再言語化しました。
当社グループは、これまでも“安心・安全・健康”を掲げ、人々が豊かな生活ができる社会の実現を目指して取り組んできましたが、これは今後も変わりません。再言語化によって、国内だけでなく海外のステークホルダーにも理解できるようよりシンプルな表現にし、保険だけにとどまらない“安心・安全・健康”に資するサービスを提供し、未来を切り拓いていくという決意と想いを込めました。
私たちが目指す「“安心・安全・健康”であふれる未来」とはどのような社会なのか、そしてその社会を実現するために私たちはどのような価値を提供していくのかを「パーパスに込めた想い」として、また、グループの社員が大切にすべきことを「SOMPOの価値観(誠実・自律・多様性)」としてまとめ、この私たちの指針ともいえる新しいパーパスの実現を目指し、グループのすべての役員・社員が同じ価値観を持って、一丸となって取り組んでいきます。
今、日本および世界は数多くの不安と向き合っています。例えば、日本は過去から地震リスクや自然災害リスクに晒されてきましたし、世界的な気候変動や地政学リスクの高まりにより、人々の日常の生活基盤はより一層、不安定化しています。これらのリスクに対して、しっかりと安定的に保険を通じた支援をしていくと同時に、防災減災のソリューションの提供によって、より安心な社会を構築していきたい。そして災害大国・日本をよりポジティブなものにし、人々が安心して生活できるような社会を実現したいと思っています。
ほかにも、人口動態の変化からもたらされる不安は見逃すことはできません。先人たちがさまざまな努力によって築き上げてきた豊かな長寿国が今、急速な人口減少・少子高齢化の時代を迎えています。この人口動態は止めることができません。今後も間違いなく、社会制度の課題や人々の人生、生活におけるさまざまな不安が表出してきます。これらをグループの総力をあげて一つひとつ解決していきたい。そしてより多くの人々が年を取ることをポジティブにとらえられる社会に変えていきたい。SOMPOのパーパスの実現を通じて、このような社会への変革に貢献していきたいと思います。
「SOMPO P&C」と「SOMPOウェルビーイング」

2021年度からの中期経営計画では、規模と分散、新たな顧客価値の創造、働き方改革の3つの基本戦略に取り組んできました。この前中期経営計画を総括すると、規模と分散では、海外保険事業の成長を主因に事業ポートフォリオの分散が進み、一定の成果を得ることができました。新たな顧客価値の創造としては、保険の機能と健康応援機能を組み合わせた「Insurhealth®」の着実な成長や、介護事業での「未来の介護」への挑戦を通じた高品質で生産性の高い介護サービスのノウハウの蓄積がありました。結果としてグループの修正連結利益は過去最高の2,910億円、修正連結ROEは9.2%、金融市場の変動影響に伴う資本増加影響等を補正すれば10.1%を達成することができました。
2024年度からの新中期経営計画では、損害保険ジャパンでの一連の問題に対してグループ一丸となって信頼回復に努めていくとともに、私たちが実現したい社会に向け、「レジリエンスのさらなる向上」と「つなぐ・つながる」をゴールとして設定しました。そして、信頼回復とレジリエンス向上に取り組む国内損害保険事業、グループの規模の拡大と成長を牽引する海外保険事業、中長期の成長の牽引役を担うウェルビーイング事業という3つの事業領域に注力してまいります。
国内損害保険事業では「新しい損保ジャパン」を目指し、今までの慣習を見直し、社会の変化に対応できる事業基盤と収益基盤の変革を目指す「SJ-R」に全社をあげて取り組みます。
また海外保険事業では、グループの成長ドライバーとして、規律ある保険引受をベースに、米国、カナダ、欧州、アジアを中心に積極的に地理的拡大を進め、さらなる利益成長を目指していきます。この2つの事業が中心となり、グループとしてのレジリエンスのさらなる向上を実現し、不確実性の高い時代におけるさまざまなリスクに対するソリューションを提供できる基盤を構築していきます。
そしてその先には2つの事業が連携を深め、「SOMPO P&C」として規模の経済を追求することで、市場環境や顧客・リスクの変化に対応できるグローバル損害保険会社としての確固たる地位を築くことを目指します。「SOMPO P&C」では、コマーシャル分野での高い専門性、コンシューマー分野での高い効率性を発揮できる組織づくりやオペレーションの構築に注力していきます。そして、各国・地域で展開する損害保険事業の知見・ノウハウを集約するセンター・オブ・エクセレンスを追求し、保険引受、再保険、資産運用などの領域でグループとして最適なポートフォリオの構築やベストプラクティスを確立し、レジリエンスのさらなる向上を実現していきます。
ウェルビーイング事業では、健康応援企業というユニークさを持つSOMPOひまわり生命や、最高レベルの品質・生産性を誇るSOMPOケアのさらなる成長を推し進めていきます。加えて、この両社およびコーポレート・ウェルネス事業などが持つ顧客基盤や強み・ノウハウを集約し、事業を超えて商品・サービスをつなぎ、この3年間で「SOMPOウェルビーイング」の事業基盤を整備し、「つなぐ・つながる」ビジネスを実装していきます。
「SOMPOウェルビーイング」では、高齢化社会における健康、介護、老後資金にまつわる「不」を解消し、年を重ねることがポジティブにとらえられるような社会の実現を目指します。今までの保険や介護のようなプロダクトアウトの発想ではなく、ライフステージによって変化するお客さまのニーズを的確に把握し、それに沿ったソリューションを提供しながら、健康寿命の延伸に貢献します。また、健康レベルが低下されたお客さまに対しては、品質・生産性の高い介護ケアサービスを提供します。当社グループのサービスを通じて得られたデータを活用することで、最適な介護ケアサービスを提供することが可能になります。保険と介護をつなげることで保険の持つ価値をより一層高めることができます。つまり保険がアップグレードされるわけです。このようにしてお客さまの一生に寄り添い、「長く」、「厚く」、生涯にわたってソリューションを提供し、お客さまのLife Time Valueを高めていきたいと考えています。
日本発の真のグローバル企業

私はSOMPOグループを「日本発の真のグローバル企業」にしていきたいとよく申しあげています。SOMPOグループは日本で生まれた会社であり、根底には日本人が大事にする利他の精神が根付いていると思っています。そういった強みを保ちつつ、グローバルで変わりゆくお客さまニーズに応えることができる会社にしていきたいと思っています。例えば、私たちのお客さまはグローバルに事業を展開しており、世界中で増加する自然災害と向き合っています。新たな地政学リスクに晒されることもあります。「真のグローバル企業」として、「“安心・安全・健康”であふれる未来」を創りたいと思ったときに、私たちは、グローバルな視点でお客さまのリスクをとらえ、最適なソリューションを提供できる存在でなければなりません。
そのためにまずしっかりと取り組むべきは、旧態依然の価値基準や現状維持バイアスからの脱却です。一連の問題で顕在化したさまざまな課題から目をそらしてはならないと強く思っています。私たちができていなかったこと、失敗したこと、ステークホルダーの皆さまからいただいたご指摘を直視して真摯に受け止め、正すべきことは躊躇なく正していく。そしてそれらを一つひとつ積み重ねてお客さまや社会からの信頼を回復していくことが、今私たちに求められていることであり、私が先頭に立ち進めていきます。
変化を積極的かつポジティブに考え、さまざまな課題の発生をチャンスととらえ、能動的にソリューションを創り提供していける人と組織。多様なメンバーが自由闊達に意見を言い合い、それを受け入れ、新しい価値を創り出せるような企業文化。私は、これらを一つひとつ実現し、SOMPOを真のグローバル企業へと変革していきます。