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(2024年8月発行)

取締役会議長インタビュー

まず取締役会議長として、
コミュニケーションを
活性化させる点に
フォーカスします。

社外取締役
取締役会議長

東 和浩

取締役会議長を引き受けるに至った背景

昨年度は中古車販売店における保険金不正請求や保険料調整といった問題が顕在化し、ステークホルダーの皆さまに大変ご心配をおかけすることになりました。取締役として、これらの問題を非常に重く受け止めています。今般、昨年来のグループ内の動揺の収束と経営課題の解決に監督の立場として取り組むことが必要だと考えるとともに、私も金融機関の経営者としての経験を少しでも当社グループの経営にお役に立てることができればと考え、取締役会議長をお引き受けすることにいたしました。

一連の問題の原因をどのようにとらえているか

何が一連の問題の要因だったのかという自問自答は当社グループ内でも繰り返し行われているわけですが、ガバナンスの仕組み、企業文化、あるいは施策の不徹底が重なったことで発生したと分析しています。しかし、私としては物事をより単純にとらえたほうが良いと感じています。これらの問題に関していえば、根本にあるのはすべてコミュニケーションの問題、これが非常に大きいのではないかととらえています。取締役会、HDと損保ジャパン、さらにはそれぞれの社内のレポーティングラインといったさまざまなレイヤーにおけるコミュニケーションが十分でなかったことが要因ではないかと考えています。

取締役会として取り組むべき課題は何か

これから取り組むべき課題は3つあると考えています。1点目は、当社グループ内のあらゆる組織のなかで「コミュニケーションを活性化」させる必要があるということです。反省をふまえて申しあげると、持株会社の取締役会として、グループの理念、計画、施策などが、グループ内の一人ひとりにいかに腹に落ち、いかに実行に移されているかを把握しきれていなかった、理念と現場のギャップをとらえ切れていなかったと感じています。このような現場の情報を取り入れたうえでの意見交換や議論が不足していました。

このような点をふまえ、2024年6月からは執行を担われている濵田さんと原さんに新たに取締役になっていただきました。奥村さんを含む執行の3人には、当社グループという大きな組織のなかで起きていることをしっかりと取締役会に伝える役割があります。特に財務や人事などの部門を統括している2人には新しい目線やより精緻な情報を取締役会に提供していただくことを期待しています。

会社というものは組織で動いていますが、そもそも「組織(そしき)」というのは何なのかを突き詰める必要があります。組織とは大和言葉で読み替えると「組み織り」です。これは織物というものは、縦糸と横糸が強く絡み合ってできていることを指しています。つまり、組織とは、縦の情報と横の情報が強く交わり合うことで、すなわちコミュニケーションによって成り立っていることを意味しています。組織は人の集団です。よって、縦横の多様な情報によって自分たちの組織が進んでいく道が正しいのかどうかを確認しながら前を向いて歩む、という知恵がこの言葉に込められていると思います。

会社における縦糸は非常に強固で指揮命令系統がはっきりしていますが、問題は横糸です。これがとても重要で、常に十分なコミュニケーションができることで、脚色されていないフラットな情報を得ることができなければならない、これが難しい課題なのです。

「コミュニケーションを活性化させる」というと簡単に聞こえるかもしれませんが、実はどんな会社も組織もコミュニケーションには課題を抱えており、私の経験を振り返っても一度として簡単だと思ったことはありません。皆が活き活きと話をする環境ができれば、当社グループは改革に向けてクイックスタートが切れるはずです。今年度は再スタートの1年目にあたりますので、まず取締役会議長としてもこの点にフォーカスしていきたいと思います。

2点目は、内部統制体制の再構築です。取締役会、特に社外取締役としては、しっかりとサポートをしなければならないと考えています。例えば、スリーラインディフェンスにおける第三線の機能強化に関しては、これまでも意見表明し、すでに一部着手している部分もありますが、しっかりと具体化し実効性を高めていきたいと考えています。

3点目は、執行の変革を後押しすることです。グループの変革をミッションに奥村さんがグループCEOに就任しました。取締役会としてはその変革が正しい方向に進んでおり、計画を上回るスピードで進んでいるのかをしっかり監督しなければいけません。しかし、監督と執行は対立概念では全くありません。もちろん牽制機能は必要ですが、常に対立して牽制することが必要なわけではないと私は考えています。会社をよりよくするために、株主をはじめとするステークホルダーの利益に資するために、執行が思い切って決断できる環境を作ることも監督の大きな役割であると思っています。もちろん、リスクの取り方などは思うことをしっかり申しあげる必要があります。やるべきではないことについても、はっきりと意思表示をしていくつもりですが、そうでないかぎりは、24時間365日グループのことを考えている経営陣を尊重すべきところは尊重しなければならないと考えています。

変化の激しい時代のなかで企業は競争に晒されていますから、奥村さんにはリーダーシップを発揮してスピード感を持ってやっていただきたい。奥村さんの背中を押すとともにスピード感を持って物事がスムーズに進められるための環境づくりも取締役会としての重要な役割であると考えています。

今後の取締役会の運営

現在の取締役会の主要テーマの一つが業務改善計画です。私が議長に就任した2024年4月以降、毎月状況が報告され取締役会としてモニタリングを行っています。関連する課題がいろいろと出てきますが、とにかく今認識している課題をすべて俎上に載せて、取締役会で議論して方向性を確認していく。良いことも悪いこともすべてです。特に悪いことについては、どんどんテーブルに載せて、変えるべきところは変えていくという方向に持っていきたいと思っています。

また、こういった計画や対応策はやはり実行が問題です。私も前職でお世話になった社外取締役から常々「計画5%、実行95%」と言われていました。ですから取締役会としては、本当にうまく進んでいるのか、進んでいないとすると何が課題なのかについて、活発に議論しています。

グループの戦略でいえば、当社グループは多様な事業を持つグループであり、HD取締役会でカバーすべき範囲はかなり広い。大所高所から見て重要なポイントに絞って議論するというのがこれまでのやり方でしたが、少なくとも今年度は各事業の現場の社員たちがどのように理解しどのように受け止めているか、と言う点についてまで見ていかなければならないと思っています。

例えば、パーパス経営。パーパスについては、グループとして「“安心・安全・健康”であふれる未来へ」と本年度から再言語化されました。私にとって最も重要なことは、現場の社員にどのように理解されているのか、本当に腹に落ちているか、ということです。

私の理解では、パーパスとは会社の中に社員の人生があるのではなくて、一人ひとりの人生の中に会社があるべきであり、主体は社員一人ひとりだということです。私たちがやらなければならないことは、その一人ひとりの個性を活かし、組織の中でいかにその個性を発揮してもらえる環境を作るか、ということだと思っています。これまでは会社という縦糸の方が強すぎた部分がありましたが、こういった現場の実情までとらえて横のコミュニケーションを太くすることができれば、パーパスを実のあるものとし、真のパーパス経営に昇華させることができるのではないかと思います。

SOMPOグループに今後必要とされることは何か

まずは先ほど申しあげた縦糸・横糸のコミュニケーションの仕組みをしっかりと作ることです。グローバルに見れば非常に多くの社員がいて、その一人ひとりの力で成り立っている会社なので、社員全員が自由に活き活きと議論しあうことができる環境を作っていくことが欠かせません。

もう一つは、グループのビジネスとしてどのように付加価値を創出するか、ということです。今は大きな変革期だととらえています。例えば半導体やAIといった技術の進歩を見ればわかるように、加速度的に進化を遂げて今年と来年では全く違う環境が訪れる時代です。地球規模では気候変動の影響などにより自然災害が増え続けており、どのようにして身の安全を確保していくかといった課題がありますし、先進国では少子高齢化と生産年齢人口の減少により介護や健康にまつわる課題が出てきています。当社グループは人々の生活を守ったりウェルビーイングを追求したりという社会の本質的かつ哲学的な課題に挑戦しようとしている稀有な存在だと思います。そのようなSOMPOの強みを活かして、どのように他の会社とは違う付加価値を生み出していくかが一番重要なことだと思います。ただ、同じものを作るだけではコモディティ化の宿命の途を進むしかありません。

私たちのやるべきことは、私たちのビジネスの違いとは何か、を研ぎ澄ますことです。社会課題が多い分、チャンスはいくらでもありますし、当社グループは事業の多様性を見ればわかるように、チャンスをつかむことができる要素をたくさん持っていると私は思っています。

このような認識のもと、執行とのコミュニケーションをしっかりととり、時には物を申しあげながらも、変革を後押しし、グループの再生と企業価値向上の実現を図っていきたいと思います。